鯨統一朗といえば、以前も書いた事があるが、「バカミス」の旗手であるというイメージが強い。デビュー作「邪馬台国はどこですか」では、バーに集まる不思議な連中の酒飲み話で、邪馬台国の所在地を「東北」であるいう新設をぶちあげてしまった。その後は、釈迦如来は実は、オカマだったとか、ありえないような馬鹿げた内容のミステリーを発表している人である。
そんな著者の作品は、「笑える」を前提に買ってしまったが、これはちょっと毛色が違う。
主人公は農業関係の雑誌のフリー記者である。ある日、田んぼの中にたたずむ一人の少女を偶然にみかける。少女は泥に汚れた服を着て、稲の中に呆然と立っていた。その少女を助けた記者に、少女は「ヒミコが日本を滅ぼす」とポツリともらした。「ヒミコ」とは、アメリカの会社が開発した、遺伝子操作による新種の稲で、長粒種と短粒種の間くらい、つまりタイ米と日本の米の間のサイズで味がよい。その上、虫が寄り付かないので農薬を使う必要がない。しかも非常に強い稲なので、風や台風でも折れたりしない。従って、安く大量に作れて、安全という触れ込みである。その「ヒミコ」が日本を滅ぼす・・・?
少女は「植物の声が聞こえる」というのだ。彼女は田んぼの稲の声を聞いたという。稲は「ヒミコ」という名前を知らないが、新しい稲は、日本を滅ぼすと嘆いているというのだ。この「ヒミコ」を調べていくうちに、アメリカの会社が開発したというこの新種の稲は、実は日本人開発者が一人で開発した稲で、その開発者とは、少女の父であり、父は母と共に、少女の目の前で射殺されたということがわかる。しかし、開発したバイオ会社に聞いてみると、開発者は1年間の長期休暇に入っているといい、その開発チームはまもなく解散、新たな部署に組み込まれ、当時のメンバーは全て海外へ出向させられていることが分かる。
アメリカの農地の広さは日本の比ではない。その土地の価格も日本の比ではない。しかしアメリカの農業の弱点は、日本の米つくりのように、田んぼを一つづつ面倒をみながら、地道に作るのではなく、大量に農薬を散布して、広い土地でいっきに作る。そんなアメリカにとって、農薬はいらない、災害に強いヒミコは、まさに絶好の稲であり、その安い稲が日本に輸入されてくるとしたら、日本の米自給率は一気に低下、益々日本の農業は衰退し、アメリカに食料の多くを依存する体質が強くなってしまう。
農水省は、そういう自給状況であるにも関わらず減反政策を進めており、アメリカからの米の輸入を増やそうとしている。これは、何か陰謀の臭いがする。
少女と共に、新種の米「ヒミコ」を追う内に、開発者が残した「ヒミコの恐怖」が徐々に明らかになってくる。米の救世主「ヒミコ」に隠された、日本を滅ぼす驚愕の事実とは!
評価:★★★★☆