前線の兵士に送るため、ボルシチの具材を用意するボランティアたち(7月上旬、ウクライナ西部イワーノ・フランキーウシクで)=三浦邦彦撮影

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 前線の兵士に送るため、ボルシチの具材を用意するボランティアたち(7月上旬、ウクライナ西部イワーノ・フランキーウシクで)=三浦邦彦撮影

 

 

 ロシアによる侵略が続くウクライナで、市民がボランティアで伝統的なスープ料理「ボルシチ」を作り、戦地に送る動きが広がっている。簡単に調理ができるよう、具材をあらかじめ切って乾燥させ、スープで戻すとすぐに食べられるようになっており、前線の兵士にも好評だ。(ウクライナ西部イワーノ・フランキーウシク 安田信介)

 

 7月上旬の土曜午後。イワーノ・フランキーウシク郊外のリュドミラ・ドロシェンコさん(46)宅に、10人ほどの女性が集まった。

 

 ボルシチの具材となる赤い根菜「ビーツ」を切ったり、乾かした野菜をビニールの袋に詰めたりと、忙しそうに手を動かす。具材は他に鶏肉やパセリなど計16種類。鍋に入れ、湯を加えたトマトソースとともに20分煮込むと出来上がる。

 

 ウクライナで、ボルシチは「母の味」だ。戦場の兵士がSNSに「ボルシチが食べたい」と投稿しているのを見て、リュドミラさんは「料理好きな自分にぴったりの支援だ」と思った。SNSで仲間を募ると、教師や会社員など様々な女性たちが手を挙げた。菓子職人ハレナ・セリピーさん(40)は「戦場の兵士たちに、小さな幸せを届けたい」と語る。

 

 材料の野菜などは活動を知った住民たちから持ち込まれるが、足りない分はリュドミラさんが私費で調達。4月中旬から先月上旬までに、軍を支援しているボランティアを通じて約3万5000食を前線に届けた。兵士からは「家に帰ったようだ」との感想が届く。

 

 ボルシチを送る動きは首都キーウなど各地に広がっている。戦闘の中心となっている東部から逃れてきた女性らが、避難先でボルシチ作りに参加しているケースも多い。今月1日には、ボルシチが国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)無形文化遺産に登録されることも決まり、活動の追い風となった。

 

 リュドミラさんは「登録に力をもらった。兵士に休みはないのだから、私たちも休んでいられない」と話している。

 

 ボルシチはウクライナ発祥で、初めて文献に登場したのは16世紀とされる。ビーツやたまねぎなどの野菜や肉を煮込んだスープ料理だ。

 

■野菜の切り方が細かく、香辛料やビーツを多用

 

 ロシアでも親しまれているが、在ウクライナ日本大使館のホームページによると、ウクライナのボルシチは野菜の切り方が細かく、香辛料やビーツを多く使うのが特徴で、赤みが強い。一方、モスクワ風のボルシチは具材にハムやソーセージを加えるという。

 

 AFP通信によると、ユネスコの無形文化遺産登録は、キーウのウクライナ料理店のシェフがロシアの侵略開始前の2020年、ウクライナ文化省に申請を働きかけたのがきっかけだ。

 

 ウクライナの申請の動きに対し、ロシア政府はツイッターで「ロシアで最も有名で愛されている料理」と反論。侵略を受け、ユネスコは23年に審査する予定を早めて今回登録を決めたが、この時も露外務省報道官が「排外主義的だ」と非難した。