尾身会長のJCHOも病床確保率低く批判も

新型コロナ感染症対策本部で発言する岸田文雄首相=2021年10月15日

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 新型コロナ感染症対策本部で発言する岸田文雄首相=2021年10月15日

 

 

 オミクロンの感染拡大が、医療ひっ迫を起こしている。24日には政府が「臨床の症状だけで診断できる」など医療を放棄するような通知を出し、改めて準備不足が露見した。そんな中、公立病院である国立病院機構(NHO)で、第6波のために進めていた臨時医療施設の設置が遅れ、3月以降の開設予定になっていることがAERAdot.の取材でわかった。さらに、尾身茂氏が理事長を務める地域医療機能推進機構(JCHO)でも、都内のコロナ病床の確保率がわずか16%にとどまっていることがわかった。改めて公立病院のあり方が問われる事態になっている。

 

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 オミクロンが感染拡大を続けている。保育園が300カ所以上も休園したり、JCHO横浜中央病院では30人以上のクラスターが発生するなど社会に大きな混乱が生じている。そんな中、公立病院のコロナ対応について官邸から厳しい声が上がっている。ある官邸関係者は「第6波に備えて設置される予定だった、国立病院機構(NHO)の臨時医療施設がまだできていない」と憤る。

 

 臨時医療施設は、病院で医療ひっ迫が起きる中で、医師・看護師が常駐したり、酸素投与が行われるなど重要な役割を担っている。感染拡大に襲われた東京都や大阪府などを中心に各地で設置された。

 

 国立病院機構は公立病院であるにもかかわらず、コロナ患者を積極的に受け入れていないとして、昨年に厳しい批判を受けた。岸田首相もこうした実態を問題視。首相就任直後の昨年10月15日に開催された新型コロナウイルス感染症対策本部では<国立病院機構法、地域医療機能推進機構(JCHO)法に基づく『要求』をはじめ、公的病院に関する国の権限を発動し、公的病院の専用病床をさらに確保する>と議題に上げた。

 

 さらに3日後の18日には後藤茂之厚生労働相が第6波に備え、NHOとJCHOに、第5波のピーク時と比べ入院の受け入れ患者数と確保病床数で11月までにそれぞれ2割以上拡充する具体的内容をまとめるように求めた。この時期に厚労省でも医療拡充策が検討され、NHOにも臨時医療施設を年内に開設することが決まった。

 

 NHOの臨時医療施設の設置はこうした流れを受けたものだ。ホームページを見ると、こうした厚労相の要求に対して「2割以上の病床数等を増加させた」として、昨年9月1日時点の2310床から2857床に増えたと成果を強調している。しかし、この増加後の数字には「※東京病院において運営予定の臨時の医療施設80床を含む」とも注意書きがあった。

 

 第6波に向け厚労相の要求は達成したと強調する一方で、実態は、NHOと厚労省の動きは鈍く、結局、臨時医療施設の設置は3月以降にずれこんでいるという。官邸関係者はこう語る。

「本来であれば完成した後や目途がたったあとに上積みされるべき病床の数が、実現できないのに、第6波の備えの成果として計上されている。これは“カラ計上”の批判は免れないです。実際には工事が遅れ、その結果、実際の運用開始はオミクロンの感染がピークアウトした後になる可能性が出てきています。第6波には間に合いそうにないという体たらくです」(官邸関係者)

 

 遅れについて事実なのか、NHOはどういった見解なのか、取材を申し込むと、書面で回答が来た。第6波に備え昨年のうちに設置する予定だったことに関しては

<NHOにおける検討結果を含め各都道府県が策定した体制確保計画等を踏まえて、厚労省が国全体におけるコロナ病床等体制確保について公表したのが昨年12月7日であった>

<開設は、法律の規定に基づき都道府県知事が開設することとなっているため、速やかに東京都と協議を完了させ、年内に臨時医療施設の工事準備に着手した>

<当初から「年内に開設する」との方針を定めたことはなく、「年内に所要の調整を完了させ工事準備に着手した」ものと認識しております>

 と見解を述べた。

 

 設置が3月以降に遅れていることの見解については

<昨年12月下旬、NHOは直ちに臨時医療療施の建物建築準備に着手した。できる限り早期に臨時医療施設の建物が完成するよう、業者との契約によりプレハブによる工事を進めている>

<この方策によっても概ね90日程度の期間を要するのが一般的である。工期短縮について業者にお願いし、可能な限り前倒しで完成するよう急ピッチで工事を進めていただいている>

<3月上旬の臨時医療施設開院を目指して最大限の取組を進めております>

 と回答した。急いではいるが、第6波に間に合わなかったという。

「『工期は90日程度』というのであれば、なぜ、決まった10月時点ですぐにプレハブ設置の調整など着工をしなかったのか。NHOと厚労省の危機感の欠如です。施設運用方法等を決められず、公立病院にもかかわらず、後ろ向きな姿勢のままズルズルと計画が遅れてしまっただけではないか」(先の官邸関係者)

 

 さらに尾身茂氏が理事長を務める地域医療機能推進機構(JCHO)についても「消極姿勢が目立つ」(官邸関係者)と声があがる。

 

 JCHOもこれまで、コロナ病床の確保や患者受け入れ数が少ないということや、それにもかかわらず、多額のコロナ関連の補助金を受け取って利益計上していたことがAERAdot.の取材でわかり、批判や疑問の声が多数あがっていた。

 

 こうした中、AERAdot.が新たに厚労省関係者から独自に入手した資料によると、JCHO傘下にある都内5病院のコロナ病床の確保数は246床で、総病床数1545床に占めるコロナ病床確保率は約16%であることがわかった(1月24日時点)。

 

 JCHOが公表している情報によると、昨年8月24日時点で病床確保数は187床で病床確保率は13%、10月7日時点で232床、15%だった。

 

 このコロナ病床数と病床確保率は、他の都内の公的医療機関と比べてもかなり低い。

 

 東京都からコロナ対応の重点医療機関に指定された都立広尾病院では総病床数422床に対して、コロナ病床数は240床で病床確保率は57%だ。同じく都が出資する公社豊島病院では総病床数419床に対して、コロナ病床数240床、病床確保率57%、公社荏原病院は455床に対して、コロナ病床数240床、病床確保率52%になっている。

 

 JCHO傘下の病院では不可解な動きもあった。城東病院では昨年9月、コロナ専用病院の運用を開始した。他方で、東京蒲田医療センターにあったコロナ病床を78床から50床に減らしていたという。ある厚労省関係者はこう語る。

「JCHOはコロナ専用病院をつくるとアピールしながら、裏では病床数を減らしていました。JCHOの5病院のコロナ病床数は、都の1病院分のコロナ病床数と同じ程度しかなく、本当に病床が必要な東京では十分な病床強化に至っていない」

 

 尾身会長は先日、『ステイホームは必要ない』、『若年層は検査なしで自宅療養』などの見解を発表し、物議を醸したばかりだ。

 

 事実関係を確認するため、JCHOに取材を申し込んだ。JCHOは当初、「改めて連絡する」と対応したが、その後、回答期限を過ぎても連絡はなかった。

 

 専門家はどう見るか。海外の医療体制に詳しいキヤノングローバル戦略研究所の松山幸弘研究主幹は「コロナ病床を率先して確保するべきなのは、JCHOやNHOなどの公立医療機関。コロナ患者を受け入れず、コロナ関連の補助金の約半分を使わずに利益に計上するというのは本来のあるべき姿からかけ離れている」と指摘する。

 

 注目するのは、イギリスやカナダ、オーストラリアなどの海外での医療体制だ。これらの国では多くの公立病院が経営統合され、一つの大きな事業体がつくられている。そのため、緊急時に大きな配置転換を行いやすくなっているという。

 

 例えば、イギリスでは国営の国民保健サービス(NHS)がコロナの感染が流行り始めた20年3月に、一般病床10万1千床のうち3万床超をコロナ病床にし、医療スタッフの約20%をコロナ医療に再配置することを宣言している。松山氏はこう語る。

「JCHOやNHOなどは各病院がバラバラに経営しており、コロナ患者を受け入れて、自分たちの経営がどうなるのか、という狭い視点でしか考えられなくなっているのでしょう。自分たちが地域のラストリゾート(最後のよりどころ)である認識がないように見えます。イギリスでは財源も一体になって運営されているので、個別の病院の経営を気にせず、大胆に体制を整えることができる。日本もJCHOなどの公立医療機関が中心となって、『3割の病床を確保します』『通常医療は民間でお願いします』といった体制をとるべきだったと思います」

 

 また、コロナの補助金はイギリス、カナダ、オーストラリアなどの海外では有効に使われているという。コロナ医療にかかるコストが正確に把握されて追加財源が過不足なく付与されるためだ。

「海外ではコロナ対策として受け取った補助金を利益計上した公立医療機関なんてありえないでしょう。補助金がコロナ対策にしっかりと使われる体制を整えるべきです。次に大災害が起きたとき、再び対応できなくなる恐れがあります」(松山氏)

 

 非常時にどこが中心的な役割を果たすのか。改めてJCHOやNHOの役割が問われている。

(AERAdot.編集部 吉崎洋夫)