イビサ島の翌日は終日航海日であった。



一日どこの寄港地にも停まらない。

ついに足を休める日がやってきたのだ。


“御歳70を迎える母と優雅な船旅を”
と思って乗った船も、現実には毎日とんでもない歩数を記録していた。


おまりーの散歩以外は歩きたくないで通しているひよこよさんも、船旅では毎日とにかく歩かねばならない。

母の万歩計は連日15,000〜18,000歩を指していた。


目当ての食べ物を探し、
狙いのつけたお土産を探し、
メトロやバス停を探す。

18階建ての船の中もレストランが端っこにあったりすると自ずと長距離移動が必須とある。


なので航海日は体を休ませ、ただただ海を眺める1日にするのもよい。






船の中は一日中どこかしらで何かを食べられる。



夕食は日替りメニューを対面でオーダーする形と、ビュッフェの2パターンが選べる。



対面オーダー式は時間と座席が1週間固定で決められており、テーブル担当者も同じとなる。



ひよこよさんのテーブルを担当するのは、

この赤いエプロンの男性…通称“うちの人”である。






“うちの人”は眼光が鋭い。



そしてとにかくオーダーを間違える。



7日間で完璧にオーダーを持ってきた日はなかったと思う。




“うちの人”は間違いなく老眼なのだが、

まずオーダーを取る時にメガネをかけない。



目を細め、眼光鋭くオーダー機と睨めっこし、

最後立ち去る時に何故かメガネをかける。



よく見えてないからオーダーを間違えるのだ。




ある日、前菜に海老やイカ、薄く切られたハマチのような魚が出た時があった。



1年ぶりの生魚に嬉々としたひよこよさんは

“うちの人”におかわりを申し出た。



前菜もメインもデザートも気に入れば何度でも頼めるのだ。



メガネをかけていない“うちの人”は

眼光鋭くオーダー機に入力し、頷いた。



おかわりを待っている間、ひよこよさんは

海鮮を得意としない長男の分のお皿もいただいた。



しばらくすると“うちの人”は家族全員分、

5枚のおかわり皿を持ってきた。





しかしおかわりをしたのはひよこよさんだけなので、家族全員分のお皿を一挙に引き受けた。



その日のひよこよさんの夕飯は前菜7皿でフィニッシュ。





7日間のクルーズで1日だけフォーマルデーという日がある。



“青い日”“白い日”など毎日何かしらドレスコードがあることにはあるのだが、

乗客はほぼ誰も気にしていなく自由に好きな服を着ていた。



だがフォーマルナイトのことはクルーズ経験者から話を聞いていたし、

実際ネットでの情報も“お洒落すべし”と載っていた。



女性はフォーマルなワンピース、

男性はスーツ、ないしジャケットと綺麗めパンツ


といった具合である。




ひよこよさん家も恥はかけぬと

各々がお洒落フォーマルであろうと思う服を持参していった。




そして終日航海日に、ついにその日はきた。






ドレスコード:エレガント




きた、エレガントだ。



夕飯前、家族全員で気合いを入れて着替えた。



長男はお洒落シャツを新調したし、

次男にいたっては蝶ネクタイも付けた。


母はひらりと風を感じるワンピースを、

ひよこよさんとてスリットが入っているドレスを選んだ。


夫もこの時のためだけにわざわざ革靴を持参したのだ。




さぁ、“うちの人”よ。


いつも歩き疲れた顔の家族が気合いを入れた姿を見てくれたまえ。






フォーマル0





全員カジュアル




気合いごりごりフォーマルのひよこよさん一家が浮いている。




ごくたまにシャツにベルトを巻いたパンツを履いている老紳士がいらっしゃるが、

あの年代の老紳士は常日頃からシャツとベルトパンツは着がちであるからフォーマルかどうかは判断つかない。




この船で気合いごりごりフォーマルはひよこよさん一家だけかもしれない。



しかし情報筋によると、

フォーマルナイトの夕飯は通常より豪華なのだという。



ロブスターが出てきたという話もある。




ここはぜひ豪華海鮮をと、

“うちの人”に注文した。







背開き貝乗せの素揚げ魚




想像もしていない料理が出てきた。



開いた背中に貝を背負う魚など見たことない。




食べる度に魚と目が合う。






周りもフォーマルでないし、

魚は貝を背負っている。



そしてデザートも見たことのない緑だ。





ここに来てバングラデシュ国旗ケーキ






一体何で着色をしたらこんなに緑になるのだ。



見たことのないメインとバングラデシュデザートを食べ終え、

ごりごりフォーマルのまま部屋に戻るは勿体無いとひよこよさんが向かったのはカジノ。






小心者のひよこよさんは賭け事などやったことがない。



しかし最近ポーカーのルールを覚えたこともあり、折角着飾っているのだから思い出作りで1発かましてみよう。






秒で丸坊主




1ゲーム3,000円が5秒毎に溶けていった。



2度と賭け事はやらぬと誓った地中海の夜であった。



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