“エレベーター停止中”の張り紙だ。
早々に管理会社が動いたことを素晴らしく思う。
しかしはち切れんばかりにぱんぱんのリュックと両手に買い物袋をぶら下げたひよこよさんは、
8階分の階段をゆっくりと上がるしかなかった。
こんな時に限ってリュックの中には今日のお昼ご飯のハンバーガーセットが入っている。
ポテトがしなしなになってしまうから早く帰りたい。
こんなことならポテトを追加料金でコールスローに変えればよかった。
そんなことを考えながら↓の階段×16を上がっていく。
しかしひよこよさんは今日また、下界に降りなければならない。
おまりーの散歩だ。
散歩のためにもうひと往復が確定している。
しかし、もしかしたらひよこよさんが散歩までの間に修理を終えているかもしれない。
そんな一縷過ぎる望みに賭けて、散歩は遅めの出発を試みた。
当たり前だがまだ修理にも入っていなかった。
手書きの“停止中”からご丁寧な印刷に変わっただけである。
“エレベーターはおそらく明日から稼働されるでしょう”
という文字だけ太文字で強調されている。
ひよこよさんは太文字強調の中の“おそらく”という言葉が引っかかって仕方ないが、
こればかりはもう仕方ない。
おまりーの散歩をしている間、夕飯について考えていた。
今日は豚かたまりを茹でて薄切りにして、
ソースを何種類か用意して各々好きに葉っぱに巻いてもらおう。
ひよこよさん家は長男が半端なく食べる時期に入った。
豚でも鶏でも肉料理で使う肉の量は1食2kgだ。
お米も夕食だけで3合が消える。
チャーハンなどの米が主役を張る場合は5合炊かねばならない。
今回は米の節約を兼ねて茹で豚を葉っぱで巻いてお腹いっぱいにさせる作戦である。
しまった、葉っぱを買い忘れた。
葉っぱがあってこその夕飯なのだから絶対に買わねば。
あーそうだ、牛乳ももうすぐない。
夫が夕食後のアイスカフェラテを、現時点での人生の唯一の楽しみとしているために用意せねばならない。
と、おまりーの散歩の帰り道に商店のような店で入り用のものを買った。
ボーリングの玉くらいある葉っぱを2玉と、
牛乳と氷2キロだ。
そしてエレベーターが止まっていることを思い出してため息をついた。
おまりーは去年の9月に後ろ脚を脱臼したおばあちゃんだ。
8階分の階段を駆け上がることはハードモードである。
ひよこよさんは覚悟を決めた。
大玉の葉っぱ2玉と牛乳と氷2kgと
ポメラニアン5kgを抱いて階段を上がる。
途中で降りてくる住人と『大変やな』と声を掛け合う。
すれ違う人全てと労う、登山と同じスタイルで頑張るしかない。
5階ほどで1度心が折れ、おまりーに自走を促したのだが
階段は電気がついておらず、怖気ついたおまりーは全く動かなかった。
そして7階に到着し、夫にエレベーターが止まっている旨と荷物と犬を担いで頑張った旨を連絡した。