金曜日の朝のこと。
夫と子どもたちを車で送り、家に帰ると冷蔵庫を開けた。
今の気分で昨夜開けた缶詰コーンのタッパーを取り出し、スプーンいっぱいに頬張ったその一口目。
ごり。
という音が口の中で広がった。
歯である。
舌で即確認、と同時に押し寄せる絶望と冷や汗。
3月に歯医者にお世話になったばかりであるというのに。
(歯医者協奏曲)
缶詰コーンで歯が砕けた情けなさたるや。
しかも欠けた歯は前回治療した歯と同じ歯である。
治療したはずなのに欠けた歯。
あんな思いまでして直したのに欠けた歯。
奥歯よ、なぜまた欠けた。
…歯医者の何が嫌というと、通称『アウディの輪』である。
(アウディの輪の話)
アウディの輪ほどの大きさに感じる、あの形状記憶シリコンには治療中も治療後にも辛い思いをさせられた。
治療翌日は口の中が口内炎だらけで水を飲むにも一苦労であったからである。
とはいえ今夏も日本への帰国の予定がないひよこよさんは速やかに夫へ連絡し、日曜日のアポを取り付けた。
『13時から予約してます、ひよこよです…。』
と受付をして待っていると、歯科助手の女性用が迎えに来てくれて診察室に入室。
『お嬢ちゃんどうしたんや。』
とぽよよん女医が待っていた。
ひよこよさんはコーンを食べた時に歯が欠けた旨を伝えた。
『もちろん分かってるやろうけど、原因はコーンやないで。
あとこの前も言ったかも知れんけど、お嬢ちゃんは寝てる時に無意識に食いしばってるんや。
せやからどうしても奥歯の消耗が激しくてもろくなる。
どれ、見せて。』
と口を開け、のぞき込んだぽよよん女医は治療を始めた。
なんと。
1回目から治療をしてくれてる上にサングラスもアウディの輪もない。
早速太陽の塔的な照射も始め、欠けた場所を埋めていく。
時たまぽよよん女医が落とした器具がひよこよさんの鼻や頬にダイレクトに当たってくるが、一言も発さず何事もなかったように治療は続けられた。
『はい噛んで、開けて。噛んで、開けて。』
と噛み合わせチェックをして治療終了。
素晴らしい。
アウディの輪をはめることなく、もう治療は終わった。
感動さえ覚える。
『先生、ありがとうやで。』
と診察台を降りようとした時である。
『あー待ってなお嬢ちゃん。
歯石取っていきや。
時間も思ったより早く終わったしな、歯石なんてため込んでても悪いことしかないで。
今からやるから、そのまま待っといて。』
とぽよよん女医に言われた。
ほう、歯石取り。
確かに歯医者ではいつも一連の治療後に〆のような感じで取ってもらっていた。
これも経験、歯石を取ってもらおう。
『…お待たせやで、お嬢ちゃん。
さぁ、すっきりしようか。』
そう振り向いたぽよよん女医の手にはサングラスとアウディの輪が握りしめられていた━━。
続く。
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まさかの登場、アウディの輪。
どうなる、ひよこよさん。
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