…女が極東から越してきてから早半年が経った。




女は相変わらずの無類の果物好きで、
今年も初夏は南アフリカ産のぶどうを買い漁った。

夏から今にかけて食べたすいかの量は計り知れない。
ただメロンだけは去年食べ過ぎて肥えてしまったがために、今年は堪えた。


そんなある日、何の気になしにいつも行くАЗБУКА ВКУСА(スーパー)の青果コーナーを歩いていた女の足が止まった。





柿である。


そして脳裏によぎるは第1話にある、去年のアゼルバイジャンの柿であった。



「もうあんな思いはしたくない–––––。」


女は柿を見つめた。


アゼルバイジャンの柿以来、柿は食べていない。
あんなに好物の柿をこの1年で一口しか食べていないのだ。


しかしあのアゼルバイジャンの柿の一口は白雪姫が食べた毒りんごに相当する一口であった。



「…いやでも、産地が違えば味も違う。
小ぶりだが甘そうな香りもする。
しかも今なら少し安い…試してみる価値はあるはず。」


女は柿を吟味に吟味を重ね、ほくほくとした表情で帰路に着いた。


柿が食べたいがゆえに早々に次男に昼寝をさせ、女は鼻歌まじりで包丁を取り出した。




「柿…久しぶりの柿…!」


そして剥き始めたのである。


剥きながらもぽたぽたと垂れる果汁。


熟れている。
間違いなくこの柿は熟れている。


今世界の中で最も熟れているものがあるとすれば、
この柿とあき竹城くらいなものだろう。




この色、まさしく食べ頃。

女は笑いながら柿を一口で頬張った。









極渋。




アゼルバイジャンの柿同様、振り切った渋みが女を襲った。

舌と上顎がくっつき、上の歯茎と唇がくっついた。

水を飲もうにも喉も渋みにやられる始末。




…女は黙ってすいかを頬張った。




よろしくおねしゃす。




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日本の柿の種をどうかロシアに…!
埋めたところで実がなるまで8年かかるからロシアじゃもう食べられないけど…それでも日本の柿の種を…!


これからもよろしくおねしゃす。**

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