近頃道が空いている。
12月まで渋滞と事故がセットであった道路がガラガラである。
渋滞していれば片道1時間弱であった長男のプリスクールまでが、今では20分ほどで着いてしまう。
明らかに交通量が減った。
「寒いからな、エンジンが掛からない車が多発するんだ。」
おじさん(ロシア人47歳)が言った。
「今日も朝の気温が−25度だっただろう。
そりゃエンジンが掛からない車も多いわけだ。
俺の車も今朝は最初掛からなかった。
根気よくやってようやく掛かったんだが、困ったもんだよ。」
それが理由でこんなにも交通量が減るものなのか。
12月の時より半分ほどの車である。
「あとなー…エンジンもそうなんだが、バッテリーが上がるんだ。
寒さでダメになるんだな。」
確かに。
最近よく見るのが、路肩に停まっている車の横で手を上げている人である。
手首にバッテリーの配線を巻きつけて、
「私のブースターケーブルをあなたの車のバッテリーと繋がせてください。」
と意思表示しているのだ。
「この時期は多いぞ。
誰かが助けてくれるまで待つしかないんだ。
ほら見ろひよこよ、あそこにもバッテリー待ちのおばさんが…おーぅ!!!!」
通りすがった車を見て、急にうろたえるおじさん。
「イーラじゃないか!!
見たかひよこよ!イーラだ!!
俺の知り合いだよ!
イーラもバッテリー上がっちまったんだ!
なんてこった!
ひよこよ!イーラだよ!」
誰やねん、イーラ。
見たかと言われても、イーラという名前もその人も初見である。
とはいえおじさんの知り合いが立ち往生しているのはひよこよさんも気が気でない。
「おじさん道引き返そうや。
この寒い中イーラさん気の毒やで。
バッテリー助けるの5分あれば済むやろ?
まだ時間大丈夫やから、戻ろう。」
「いいのか、ひよこよ。
申し訳ないな…よし、戻ろう。」
ウラジオストクの道を引き返すのは至難の業である。
あまり引き返しポイントがないために、結構走らなければならない時もある。
それでもイーラさんとやらが困っているのであれば、行くしかない。
「イーラはな、うちの息子が小学生の時によく遊んでいた友だちのお母さんなんだ。
彼女はマークIIに乗っている。
いつもマークIIなんだ。
買い替えてもマークII。
マークIIの次もマークIIだ。
さっきの車もマークIIだった。
彼女は本当にマークIIが好きなんだな。」
道を引き返しながらおじさんが話す。
「今から俺たちが助けるのもマークIIだ!
よーし待ってろイーラ!!」
しかしイーラ、もういない。
先ほどの場所にもう彼女はいなかった。
きっと親切な誰かが助けてくれたのだろう。
「…少しでもイーラが寒い思いをしなくてよかった。」
と話すおじさんだったが、助ける気満々の空気であった車内。
不完全燃焼感が半端なく流れたのであった。
よろしくおねしゃす。
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どれくらいの時間をイーラさんが立っていたのかは分かりませんが、誰かが助けてくれるという優しさが素晴らしい。
よかったね、イーラさん。
これからもよろしくおねしゃす。**