吉永圭一の日常は、順風満帆なものであった。

勤め先の建設会社では大きな仕事の企画を任され、再婚を考える相手もいる。

 

しかし、別れた妻純子との間に生まれた14歳の息子翼が

同級生殺人事件に関与した疑いで逮捕され状況が一変。

 

息子の無実を信じる圭一だが、翼は誰に対しても何一つ告げない。

ただ、人を殺した事実を認めてしまう。

圭一は、翼の「付添人」(少年法10条)になることを決意する―

 

 

読みながら何度も衝撃を受ける作品。
 

圭一も純子も知らない翼の日常、そして事件当日の翼の気持ち。

これらが分かるとき、やりきれない感情が涙となって自然と溢れてくる。

 

そして圭一と翼のやりとりは、あまりに苦しかった。

 

人はどこかで自分の大切な人は良い人間であることを期待してしまうし、

ましてや相手が自分の家族ならば尚更そうなってしまう。

これは仕方のないことだと思うが、その期待によって大切な誰かを苦しめてしまうこともある。

信じるとか信じてもらうということは、ある意味「縛り」なのかもしれない。

そう思わされる関係であった。


 

ラストシーンも印象的である。

被害者宅で、圭一が「どこで間違えてしまったんだろう」と思いを巡らせる場面。

 

圭一は正直自分のことばかりで良い父親としては描かれていなかったかと思うが、

息子と関わり息子のための行動をとっていたことは事実。

 

そんな圭一が過去を思い一瞬絶望するシーンに直面し、

「どんな現在を生きようとも時間は巻き戻せない」という当たり前の事実が

圭一と翼の前に大きな壁となって立ちはだかっているような感じがした。

 

是非人に薦めたいが、果たして薦めて良いものか躊躇ってしまう部分もある。