壱岐の苑での大騒動を思い出したのは、綿の服に付いた泥水。
産後すぐに兄三男が小さい赤ちゃんを持ってダッシュした懲らしめに、たらい寺まで船を出し牢屋にされて放り込まれた。
入口から通路をギシギシ歩く途中に、ごちゃ混ぜに物を入れている箱が見えて、「靴墨」と説明する女将さん。首が未だ据わらない三つ子の未熟な私は、思わずヒョイッと覗き込んだ。確かに色々か道具が置いてある。
「ここで反省し。小学校まで御堂に入れて開眼せんと。悪の骨頂に見られてるからね。」
それを見て一目散に、さっき通路途中にあった非常ボタンをおもいっきり押した。

「ビーーーーーーッ!」
「あっ!!」女将が驚きの声を発する前に述べた。
「非常ベルあんたのお兄さんにした悪報せるため。あんたがお兄さんここに入れるならワラワも入り二人で過ごす。」
人より足りないお兄さんの臓器は先天性ではなくたらい寺で提供させたのではないかと、心配する今の私は、非常に臆病で普通より弱いが、お兄さんや同士達の前ではワラワの力を発揮するだろうから。ワラワとは童と書くべき時に助け声だが、妾の漢字が良く合う手洗寺だった。
