工事の音よりも 作業員の私語のほうがうるさかった 基礎工事が、 ようやく終わりそうだ。

 

薄暗くなって 作業員が帰った後に 通気のために勝手口を開けると、 

 

裏の土地に作っていたベタ基礎は ほぼ完成しているように見えた。

 

 

 

次の大安が 上棟式かな。

 

 

 

我が家を作ってくれた ひよ子ハウジングでは、 

 

「施主さんは わざわざいらっしゃる必要は ありませんよ」

 

と言って、 平日の大安に さっさと上棟式を済ませてくれた。

 

その前に、 工事を行うに当たり ご近所に 騒音を出すことのご挨拶をするときも

 

「弊社の担当者と 大工さんで回りますので、 施主さんはいらっしゃらなくて 大丈夫です」

 

と、 極力 施主の手を煩わせないようにしてくれていた。

 

挨拶くらいは 住む人間が行った方が 良いのではなかろうか… と思いつつ、

 

うちがわがままを貫いて 挨拶に行くと、 他の区画の施主も 行かざるをえなくなる 

 

というハウスメーカーの意見に納得し、 挨拶やら 上棟式やらは 全くノータッチだった。

 

 

 

上棟式を行っているのであろう、 平日の午前中。

 

勝手口は閉まっているけれど 裏の土地から聞こえる クレーンの音やら 監督の声やら。 

 

にぎやかだなあ と思いつつ、 出られなかった我が家の上棟式を思い出し、 雰囲気だけを味わっていた。

 

 

 

昼を過ぎて 裏からきこえる音が 随分と落ち着いたころ、 我が家のインターホンが鳴った。

 

モニターで確認すると、 まったく見覚えの無い男女が なにやらいくつか紙袋を持って 立っている。

 

 

 

私       「はい?」

 

インターホン 『恐れ入ります、 このたび 裏に家を構えることになりました、 ウララと申しますが…』

 

 

 

びっくりした。

 

自分が上棟式に出なかったことは 確かに 「いいのかな?」 と思っていたけど、

 

ハウスメーカーに頼むと こんなものかもしれない、 と、 

 

心のどこかで 『ハウスメーカーで建てる』 ことと 『大工に直接頼む』 ことの線引きをしていたのだ。

 

だからこの日も、 『昔だったら 餅とか撒いて、 にぎやかに ご近所とのコミュニケーションをはかるんだろうなあ~』

 

『きっと 引っ越してくるまで 施主の顔も知らずに 終わるんだろうなあ~』  と 勝手に思い込んでいたのだ。

 

 

 

慌てて 玄関に出ると、 男女はにこにこと こちらを向いて 待っていた。

 

男性は ひよ子夫婦と同世代か、 少し上くらい。 優しいというか、 弱腰というか、 そんな感じの印象を持った。

 

女性は当然 奥さんか… と思ったけど、 奥さんにしては 少し 年齢が離れている感じがする。

 

どちらかというと、 ひよ子の母に 世代が近いような…、 それほど上でもなさそうな…。

 

なんにせよ 温和な顔立ちで、 人あたりがよさそうなことに 間違いはなかった。

 

 

 

ウララ 「どうも いつもお騒がせをして 申し訳ありません。 ウララと申します」

 

私    「ご丁寧にどうも…。 ひよ子と申します。 これからよろしくお願いします」

 

ウララ 「すぐ裏で工事ですからねえ…。 ご迷惑でしょう?」

 

私    「いいえ~、 うちも去年建てたところなんですけど、 そのときは うちも音を出してましたんで。

 

      同じことですからね、 気にしないで下さい」

 

ウララ 「今日が上棟式で。 これから本格的に 建物が建ちますと、 また音が出て ご迷惑になりますので…

 

      挨拶代わりと言っては なんですが…」

 

ウララ氏は、 持っていた紙袋の中のひとつを ひよ子に差し出した。

 

私    「あっ! いえいえ、 お気になさらずに…」

 

一応断ったものの、 上棟式といえば 餅投げ。

 

餅の代わりという気持ちがあるのかもしれないと思い、 ありがたく頂戴した。

 

その後、 いつごろ家が建つだの、 二言三言喋ってから 挨拶を終え、

 

ひよ子が家に入ると、 ウララ氏は 隣の家のインターホンを鳴らし、 あいさつ回りの続きにとりかかった。

 

 

 

夜になって 帰宅した夫さんに 挨拶に来てくれたことの一部始終を話し、

 

夫 「ハウスメーカーによって 違うんだろうけど、 わざわざ来てくれるなんて 丁寧な人そうで よかったね」

 

私 「夫さんの実家を建て替えたときは ハウスメーカーと お義母さんが 一緒に回ったって言ってたよね。

 

   うちが 自分で行かなかったのが なんか申し訳なくなってきたよ」

 

と、 ウララ家が かなりの好印象である会話を交わした。

 

(今気づいたけど、 ウラウラ住宅は 自分たちが挨拶に回るという考えが 一切無かったんだな。)

 

ただ、 家族構成が良く分からなかったけれども、 

 

「引越しの時に きっとまた挨拶に来てくれるよね」 ということで その場は終わった。

 

ちなみに 頂いたのは 贈答用の 和洋菓子。 二人家族には 多すぎるくらいの詰め合わせ。

 

仲良くなれると良いなあ、 という希望を抱きながら、 ひよ子夫婦は 頂いたお菓子を おいしく頬張っていた…。