ひよ子が勤めていた会社は、 無人駅で降りて そのまま一本道を 10分ほど歩いたところにあった。

 

駅の周りは 昔ながらのスーパーと 少し離れてコンビニがあるくらいで 賑わうことも無い、

 

まあ 言ってみれば 片田舎というところだ。 

 

道のりは坂を上ったり下ったり、 まあ そこそこ歩くかな といった程度だったけど、

 

工場や 民家しか無いので 人通りも無ければ 街路灯も乏しく、 冬場や夜は とても寂しい道だ。

 

社員のほとんどが車通勤の中、 電車通勤のひよ子は 帰るときに誰かに会うと

 

「気をつけて帰れよ! 外は暗いぞ!」 

 

などと決まって声をかけられる。 もちろん、 タイミングが合えば 駅まで送ってもらうことも しばしばだ。

 

こんなぐあいに、 一本道の通勤路は みんなの中で 

 

「女の子の一人歩きは無用心」 という認識があるのだった。

 

しかし当のひよ子は 『10年近く通ってるけど、べつに何にも起こらないんだけどなー』 なんて

 

けっこう他人事のように思っていたりしたのだけど。

 

 

 

そんな 夏のある日、 1時間ほど残業したひよ子は 「まだ明るいな~」 と少し上機嫌で

 

名探偵コナンを見るべく (←なんか文句ある?) 例の一本道を通って 家に帰る途中だった。 

 

 

 

駅前のスーパーは、 線路側に入り口があり、 道は線路に対して垂直になっているため

 

一本道からは スーパーの横しか見えない形になる。


    | |    |     スーパー    |  ←入り口     |  |     ‡ ↑駅

    | |    |__________|             |  |     ‡

___|  |______________________|  |__××× 

                道                            踏切

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ‡

↑こんなかんじ                                      ‡

 

 

スーパーの横に差し掛かったとき、 ふと 後ろに 自転車の気配を感じた。

 

歩道には、人が二人並んで歩けるくらいの余裕がある。

 

でも ひよ子は一人で歩いていると、 うっかり 道の真ん中を通ってしまう癖があるので、

 

後ろから来る自転車などの 道をふさぐ状態になることも しばしばだ。

 

あ、またやっちゃったな。

 

そう思って 歩きながら 少し歩道の左に寄った。 そして、 自転車がひよ子の右を通る瞬間、

 

 

 

 

 

むにっラブラブ

 

 

 

 

 

私 「!!!!!??」

 

 

 

 

 

何かが、 ひよ子の右胸を 触った!

 

ハッとして見下ろすと、 自転車の男の手が ひよ子の胸の上にあるではないか!

 

私 「ちょっ……」

 

声を上げるまもなく、 男の手は離れ、 そのまま自転車は 悠々と ひよ子の前を進んでいく。

 

 

 

この記事を読んでいるあなたは、 こんなとき どうする?

 

声を上げる?

 

呆然と立ちすくむ?

 

怖くなって 何も出来ずに しゃがみこんでしまう?

 

ひよ子の場合はね……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私 「ちょっとアンタっ!!待ちなさいよ!!!むかっ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

追いかける。 アチャーヽ(;´ω`)ノ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

追いかけられるのは想定外だった痴漢、 それまで悠々とこいでいた自転車のペダルを、

 

即座にスピードアップ! 

 

そもそも 女の足で、 夏だから ミュールなんか履いていて、 さらには折り紙つきに鈍足のひよ子。

 

自転車なんかに敵うはずは無い。 それでも追う。 追っかける。

 

とっ捕まえなきゃ 気がすまない!!!

 

 

 

私 「ちょっと!そこの痴漢!! 待ちなさいって!!」

 

 

 

そして痴漢は大胆にも スーパーの入り口方面に曲がった。

 

私 「ちょっと、バカっ!痴漢! 待てって言ってるのっ!!」

 

待てといわれて 待つ馬鹿はいない。

 

痴漢はちらりとこちらを向き、 すこしほくそえんでいるように見えた。

 

そのまま 路地の奥に向かって 猛ダッシュ!

 

ひよ子も急いで角を曲がるも、 痴漢はどう考えても追いつかないところまで 逃げてしまっていた。

 

 

 

私 「もーーーーー!!バカーーーーーぁ!!」

 

 

 

息も絶え絶えに 痴漢に向かって吠えたものの、 声が届くはずも無い…。

 

スーパーの入り口で あっけに取られてこちらを見ている どこかのおじいちゃんを尻目に、

 

とぼとぼと ひよ子は 家路に着いた……。

 

警察行こうかな……。 でもな……。

 

 

 

コナンが始まっちゃうし……。

 

 

こうしてこの日は 警察に行くでもなく、 触られ損で終わってしまった……。

 

 

 

翌日、 会社で このことを話すと、 みんなから ど叱られてしまった。

 

  「なんで追いかけるの!?」

 

  「危ないじゃん!!」

  

  「逃げたから良かったようなものの、 下手したら逆上して ヤられてたかもよ!?」

 

  「なんで 警察に行かなかったの!!」

 

私 「コナンが見たかったから…」

 

  「あほかー!!」

 

私 「良く考えたらさあ、 私、 傘を持ってたじゃんね」

 

  「ふんふん」

 

私 「傘投げて、 命中してたら、 捕まえられたかも……?」

 

  「そんなわけ ないでしょー!! もう、 絶ーっ対 追いかけちゃダメ!!」


 

 

そうか……、 みんな 追いかけないのか……。

 

こうして ひよ子は ひとつお利口さんになり、 この話は 幕を閉じた。

 

しかし、 この話には 続きがあったのです……。