子供のころ、姉と私は当然ながら同じ小児科にかかっていた。

 

古びた医院で、たしか優しいおじいちゃん先生がいたと思う。

 

大人になったある日、どういうきっかけだったか 母、姉、私の3人で、その小児科の思い出を語っていた。

 

 

 

 

 

私 「なんか、ピンクの水薬くれたよね。ちょうど目盛りまで飲むの、けっこう難しかったな」

 

姉 「ああ、あの甘いやつね」

 

 

 

母 「あんたなんか、熱に弱かったから、おかあさんはしょっちゅうあそこに行ってた気がするよ」 

 

私 「お腹の中にいるときに強い子にしておかないからだよ」(無茶言うな)

 

 

 

姉 「まあ小児科なんてそんなもんだと思うけど、注射で泣かないとアメくれたりとかしたよね」

 

母 「そうそう、ごほうびとか言ってね。あの先生は優しかったから」

 

私 「私、ギャンギャン泣いたけどアメもらったなー。

   

   いいの?って思ったけど、多分 先生なりに なぐさめてくれたんだよね」

 

 

 

 

 

するとふいに姉がこちらに向き直った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

姉 「そうだよ!!あたしなんか、アメ欲しさに

   

   すっごく頑張って泣かなかったのにさー、  

 

   なんでワーワー泣いたあんたが  

 

   アメもらってんの!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……え。

 

…………せんせいが くれたから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

姉 「あんたっていつもそうだよね!

 

 小さいからって、ずるいんだから!!

 

 

 

 

 

だって、アメなんか くれても くれなくても 良かったんだもん。 

 

とにかく注射がイヤだったんだもん。

 

ずるいって言われても困るんだけど。 

 

ていうか姉、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

何十年前のことで怒ってんだ!???

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


私 「そんな昔のことで怒らないでよ~。アメだったらいくらでも買ってあげるからさ~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

姉 「もうそんなもんいらないよ!!むかっ

 

 

 

 

 

姉の言い草は、小さいころのそれにそっくりだった。 

 

 

  

人間は、昔のことを思い出すと、感情までよみがえってくる不思議な動物だったのね。

 

 

 

ひよ子はまたひとつ おりこうさんになったよ。