メイク・ストーリー『欠けた色を取り戻して』(前編)
「メイク・ストーリー」(今回は、ノンフィクションです~)をお届けします
「欠けた色を取り戻して」(前編) (麻実)
母は、物を大事にする人だ。
10年以上もの年季の入った洋服を、平気で着ていく。
母は、その人の行動の前・後まで的確に察知し、
フォローをさりげなくできる達人だった。
久しぶりに実家に行った、ある日のこと。
その日は、夕ご飯を食べたらすぐに帰る予定だったが、
あまりの居心地のよさに、泊まっていくことにした。
が・・
こういうときに限って、ファンデーションを持ち合わせていなかった。
「お母さん、明日、ファンデーションだけ、貸してくれない?」
というと、透明なプラスティックの箱をいそいそともってきた。
「ほら、ここに、ファンデーション、入ってるから。
お母さんいつも、この2色を混ぜるとちょうどいい色になるから、使ってるの。
スポンジは、これね。水につけて使うといいかもね。
あ、もしピンを使うなら、ここに。」
そのコンパクトを開けると、
たしかに、明るい肌色と暗い肌色との2色が入っていて、
でもそれらは、そのコンパクトにたまたま入ったのだろうか、
若干スペースがあるところをみると、コンパクトと、
そのファンデーションリフィルとは、一致していないもののようだった。
・・翌朝。ふだん、わたしはリキッドファンデーション派だが、
母にならい、ファンデーションを借りることにした。
ファンデーションのパクトを取り出した。ササッと、「水あり」使用で使ってみる。
なかなかよかった。どこのメーカーかはわからないが、
おそらく母のことなので、国産メーカーかな、とあたりをつけた。
母に借りた、プラスチックの箱──
この箱には、ファンデーション以外に何が入っているのかがぜん気になり、
どんなものを母が使っているのか、わたしは興味津々で箱をさぐった。
何かの空き筒に入れられた、軸物(じくもの)類。
リキッドアイブロウが、2種。
すぐに高級と分かる、有名ブランドもののアイブロウペンシルが、1種。
ガチガチにカタクなってしまっている、アイブロウブラシ。
これで、リキッドアイブロウをぼかしているのかも、と察知した。
あとは・・黒いマスカラと、
昨日、わたしがあげた茶色いマスカラ。
ビューラー。リップブラシ。
あれ・・・?わたしがプレゼントした口紅は、どこだろ。。?
思い出した。大事そうに、違うスペースにしまってあることを。
ということは、口紅は、ふだん、使っていない模様だ。
(後編に続く・・)