46歳の、再出発。(後編)
昨日の、前編、の続きをお届けします!
「46歳の、再出発」(後編) (井上さん:46歳)
(ピンポーン・・ピンポーン)
呼び出し音が鳴った。
きっと、通販で購入したものが届いたのだろう。
「はぁい。ただいま。」
と、ドアを開けて荷を受け取る。
顔なじみの配達員が、一瞬、ギョッとしたような顔をした。
ドアを閉めると、なんだか、どこかにザラつく思いを感じ、
あわててテーブルに戻り、
化粧ポーチからコンパクトで自分を見てみた。
「もしかして、濃い・・?」
自分は、力が強いらしく、
病院で、好意で同僚にマッサージなどをしてあげていると、
いつも、
「力加減が上手ね。気持ちいい。
このくらい、自分で力を入れてできたらいいんだけど。」
と誉められていた。
なのに自分の顔となると、どのくらいの力加減で、
どのくらいのさじ加減にすればいいのかが分からなかった。
自分の力強さを、色を、自分でしっかり分かるまで行わなければ、
「メイクをした」という気がしないので、
どんどん圧が強くなるし、どんどん色が濃くなっていくのだった。
この20年、自分の力強さは、時として、人間関係にヒビを与えることもあった。
ついつい、部下の人に強くあたってしまったり、
目上の人にも、自分の主張が正しいと、
ついつい、棘のある口調で言ってしまったこともあった。
鼻先がツンとして、目にジュワッと、涙がでてきそうになった・・
でも、ここで負けるものか! と、
目元のメイクだけを落とし、もう一度、チャレンジしてみた。
・・同じだ。さきほどよりはまだマシかもしれないが、
外の光で確認すると、明らかにグリーンだけ、悪目立ちをしている。
でも、じゃぁ、どうやったら、キレイになれるんだろう。
どうやったら、ちょうどいいように、メイクができるんだろう。
やっぱり、ダメだ。
机に突っ伏して、今度は本当に涙がこぼれそうになった、そのとき。。
テーブルの上にあったテレビのリモコンが床に落ち
「ピッ」と電源が入ってしまった。
映しだされていたのが、「‘-5歳アイメイク’で、若返る!」という、
夕方の情報番組だった。
・・テレビから流れる声に反応し、思わず顔を上げ、かじりつくように観た。
「・・・ですので、メイクをしてメイク・アップ、をするのですが、
実際には、メイク・ダウンをするんです。
メイクをした痕跡を、いかに消していくのか・・それが、プロのテクニックであり、
この、-5歳アイメイクの最大の特徴なんですよ。
ですので、今日ご紹介したような、アイシャドウブラシ、
ぜひ、お使いになってみてくださいね。」
その、朝美、という人は、しきりにアイシャドウブラシの良さ、を話していた。
そうなのか・・・
自分は、指だけで、メイクをしていた。
力強く、色鮮やかに、くっきりと・・・・指でつけるものだと、決めつけていた。
だが、ブラシを使うことで、映像のような、キレイなメイクができるのだと知った。
次の瞬間、急に思い出した。
友人からもらったブラシセットが、確かあそこにあったはず・・・
もう1度、チャレンジしてみた。
今度は、不恰好ではあるけれど、なんとか、自分にOKを出せる仕上がりになった。
いつしか、ウキウキした自分が、そこにいた。
昨日と同じ、さっきまでと同じはずの自分なのに、何かが違う。
色が品良くまぶたに入り、そのメイクを見ると、グリーンの色彩効果もあってか、
癒される自分がいた。
心が、軽くなった気がした。明日にでも、現場に復帰したい思いに駆られた。
──配達員から受け取った荷物は、
今後のことを相談していた看護婦長から送られた、
保険師になるための、看護大学に関する資料だった。
「あなたなら、次のステップに行けるから。
あなたなら、まだまだ可能性があるから。
これからも、同じ医療の現場で、共に成長し合いましょう。」
達筆な文字で綴られた便箋を手に、
こんどは、ツンとすることなく、
するりと、静かに涙がこぼれおちていった。 (終)
~いのうえさん、
いまきっと、優しい、いい表情をされているのだろうな~~と・・
想像ですが・・
あ・・
今回のストーリーでは、妄想(願望!?)につき、
勝手に自分自身を登場させちゃいました^^;