46歳の、再出発。(前編)
「メイク・ストーリー」(フィクションです)をお届けします
「46歳の、再出発」(前編) (井上さん:46歳)
ずっと、医療の現場にいた。
朝も夜も、人の生死を見続けて・・といったら大げさだが、
気付いたら、20年が過ぎようとしていた。
その間、自分のことといえば、なりふりかまわず仕事に邁進していた、
というと、聞こえは格好がいいが、
実のところ、体も心も疲れきってしまっていて、
自分のことを構うヒマがなかった。
いや、構わないフリをしていただけなのかもしれないが・・。
そんな自分だったので、メイクのことなんて、無頓着だった。
もちろん、メイクを始めたばかりの若い頃は、
友人の後についていくなどして、化粧品を、それなりに買ってはいた。
シャネルとか、ディオールとか、人並みに。
だが、基準なんてなかった。
友人が買うものは、きっといいものに違いないと思って、
自分も同じものを買っていただけなのだから。
そうやって、一応、ひととおりの道具は持っていたが、
現場では、特にメイクを必要とされていなかったので、
その環境に甘えて、メイクを避けてきていた。
でも、20年たったある日・・・
急に、いいようのない不安が襲ってきた。
出会いもほとんどなく、独身。この仕事をずっと続けていいのか?
続けられる体力、精神力はあるのか?
自分の大きすぎる足と、大きすぎる、肉付きのよい手を眺めながら・・
悩んだ末に、医療の現場を離れて、
しばらく、1人で今後を考える時間を設けることにした。
1週間後の、昼下がり。ふだんは行かないのに、
ふらっと、コスメカウンターに寄ってみた。
なぜか、グリーンを基調としたアイシャドウパレットに目が奪われた。
「こちら、ベージュ、イエロー、グリーン、カーキ、の、
とても使いやすいアイシャドウなんですよ。
よろしければ、お試しになっていかれませんか?」
ほら、つかまった・・・
でもこのとき、なぜか、「だまされるなら、とことんだまされてやろう」
と思い、「あ・・じゃぁ、お願いします。」とお願いしてみることに。
・・するとどうだろう。
なんだか自分が、若返ったようだった。
鏡の中の自分は、「修正」をしたかのように
(実際修正しているのだが)きりっと目元がリフトアップして、
しかも、マスカラまでつけてもらったので目がはっきり、いきいきとしている・・・
そういえば、もともと、シワやシミが少ないことから、
年齢よりも、5歳くらい若く見られることが多かったが、
メイクをすると、こんなに変わるものなのか。。
買う気などなかったのに、
半ばとりつかれたかのように、そのアイシャドウを買った。
家に帰り、さっそく、もう1度、自分でメイクをしてみることにした。
すぐにはできなくても、まずは練習をしておけば、とりあえずいいかな・・
職場復帰するにしても、再就職をするにしても、メイクって、必要だからな・・。
黒い箱に入っていたアイシャドウパレットを出し、開けてみる。
4色のおいしそうな色は、まるで、お菓子が詰まっているようだった。
「とてもお似合いですよ。
グリーンは、癒しの色ですよね・・色彩心理の上では
心の平和と体の健康を取り戻させる色、とも言われているんですよ。」
と、カウンターのお姉さんが教えてくれたことばを思い出した。
教えられたように、アイシャドウを塗る。
色は、入れたことがわかるように入れないとね、と思い、・・・どんどん、色を重ねる。
(後編に続く)
井上さんの、久しぶりのアイメイク、うまく、行きますように・・・(ハラハラ)
明日の後編に、続きます・・^^!