2023年 第25戦 ニトリレディス | ひよこきんぎょのJLPGA(日本女子プロゴルフ)ツアー観戦記

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菊地絵理香選手を中心に、試合レビューを書いていきます。
※記事中の人名はすべて敬称略とさせていただきます(一部例外あり)

 

 この雨、止むんかな。


 画面から聞こえ続ける雨音、もう4時間になる。ニトリレディス最終日、朝から順調に進んでいるように見えたが、10時半に雷雲接近により中断、ほどなく雨が降り始めた。


 13時、きょう最終日の競技不成立が決まる。天候が回復次第、3R目終了時点で首位に並んでいた3人によるプレーオフを行う、というアナウンスがあった。

 そもそも初日から荒天サスペンデッドだった。翌日30H以上をこなさなければならない選手が続出。しかも観測史上最高気温を叩き出している小樽のその暑さの中でだ。

 

 菊地絵理香もそんな選手のひとりだった。だが、菊地にとってこれは恵みの雨となった。初日中断になるまで4Hを消化し2オーバー。もともと相性の良くない(しかも国内屈指の難ホール16番を従える)小樽でスタートに失敗すれば、巻き返しに費やすエネルギーは計り知れない。

 とにかく気持ちの切り替えが必要なタイミングで雷雲来たり。そのおかげか翌朝からの32H長丁場を8バーディ・2ボギーで回り、一気に首位と2打差まで順位を上げた。


 そして翌3日目もナイスラウンド。6バーディ・1ボギーでついに首位をとらえる。Today-5は馬場アマと並びベストスコアだ。最終日は申ジエ岩井明愛と並んで最終組で戦うこととなった。


 ここまで来たら勝ってもらいたい。ミネベアミツミレディスで敗れたリベンジを果たすには、今回が最高最適の舞台であることは先日書かせてもらった。

 

 

 さて最終日、永久シードまであと2勝と迫った申ジエがいきなりエンジン全開だった。パットがことごとく入り4番までで3バーディ。また岩井明愛も3バーディ(1ボギー)と、アースモンダミンカップでジエにプレーオフで敗れた借りを返すべく離されない。


 一方の菊地はバーディパットがカップまで届かない。手が動いていないのか。読み違いなのか。またはボギーを打たないようにフロントナインは慎重に、バックナインで一気に逆転を、と考えているのか。
 しかし他の組の上田桃子川岸史果吉田優利らがスコアを伸ばしてきて、8番終了時点で5位Tまで順位を下げてしまった。どうやら勢いは他の選手に有りか、と(私が)諦めかけたところで、初日にも鳴ったホーンが鳴り響く。


 雷さま、ふたたび。

 4時間後に雨はようやく止んでくれた。15時30分より、先ほどのアナウンス通り、申ジエ、岩井明愛、そして菊地絵理香の3人によるプレーオフが行われることになった。アースモンダミンカップでの借りを返す明愛の話を書いたが、そのアースで一時クラブハウスリーダーになりプレーオフ準備をしていたのは何を隠そう菊地絵理香だった。 パターをもくもくと練習して待っていたのに、ジエのパーパットが決まりPOが無くなったとの知らせを受けて、そそくさと帰り支度をした悔しさをここで晴らさねばならない。しかし菊地のプレーオフ戦績はこれまで0勝4敗。まだ一度も勝ったことがない。このデータが重苦しくのし掛かったまま、運命の舞台17番(Par.3)へ。3人を運ぶカート、先頭を走るのは菊地絵理香


 オナーは申ジエ。ティーショットはピン上4mへつけバーディチャンス。このショットをみてピン手前につけたかった菊地は番手を下げてフルショットを選択。しかしグリーンに届かず花道にボールは落ちた。その後のアプローチも2m残して、ふぅ、と天を仰ぐ。疲れもピークを通り越しているはず。菊地の手、まったく動いてくれない。


 そして最後に打った岩井明愛はバンカーアゴ付近の目玉。出すのがやっとのボギーで終戦。


 さてジエのバーディパット。おそらくそこに居た全員、観戦をしている全員が、このパットが決まってジエのJLPGA29勝目になるんだろうなと思っていたはず。正直私もだ。(3人プレーオフで敗れた場合メルセデスポイントは何ポイント得られるのか調べてしまったし)


 4m上からかなり左に切れる簡単ではないパット。だが今大会、いや、今まで何度も見てきた「難しいことを簡単に」やるジエのプレー。けっこう右を向いているな……と思ったが打ったボールはジエの読み通り、どんどん左に切れていく。あともうひと切れするとラインに乗ってしまう。


 「入るなッ!」と誰か(私です)が叫んだ。


 ボールはそれ以上切れることなく、軌道を変えずにそのままカップ右を通り過ぎた。思ったよりも転がったジエのボールはカップを2mもオーバー。これで菊地がプレーオフ2ホール目へ進めるチャンスが来たぞ、と色めきだったその時。なんとジエが返しのパーパットも外したのだ。


 ほんの1分前まで、 “打たせてもらえるかどうか分からなかった”菊地のパーパットは、なんとウイニングパットに昇格することに。


 カップまで2m、右にどれだけ切れるのか。
 アドレスに入った菊地がつぶやく。


 「手、動け」


 するとさっきまでの動きが嘘のように、キレイなフォローから放たれたボールは、ほんの少し右に切れたがすぐに視界から消えた。


 菊地絵理香、昨年の大東建託に続き地元北海道で今季初優勝。
 そしてついに最終戦リコー・チャンピオンシップへの出場権を得た。さあ、昨年と同じ、いやそれ以上の準備をして今年こそ、そのメジャーを獲得だ。

 優勝が決まり、岩井明愛申ジエとハグを交わしていたとき、遠くで雷鳴が聞こえた気がした。


「そうそう、あたしはずっとあんたを勝たせたかったのよ」

 

※セリフはすべて想像

 

 


PO、ティーショットがミスになり、見たこともない表情に。激レアである

 


優勝の瞬間、びっくりの表情。そういえば今季第11戦のRKB×三井松島レディスで勝った岩井千玲が同じ表情をしていた

 


競技不成立からのプレーオフ。優勝スピーチなし。いろいろ異例の大会だった。勝てばなんでもよいし

 


副賞いろいろ。ベストスコア賞ももらった

 

 

2023.8.27.18:05責了