先日出町座で『きみと、波にのれたら』を観てきた。(やっと観に行けた)


少女漫画のような甘いラブストーリー。
ストーリーはあまり脱線せずに、画や構図にもあそびが少ないなと感じた。
そして喪失を乗り越える主人公。普遍的な題材。
全てが王道だと感じた。
(王道で展開が分かっていても、やっぱり泣いてしまったし、すごく感情移入はした)

しかし学園恋愛ものはアニメーションでも多いけど、こんな感じの普通の20代がするような恋愛ものを、アニメ映画でやるのは新しい試みだなと思った。

またアニメーションだからこそ白けさせずに、美しく自由でダイナミックな波や水の動きが良かった。(実写のCGだとぎこちなと作り物感が伝わって本編に集中出来ないと思う。)


色彩も爽やかで、監督自慢の大正ロマン的な色彩も封印。
“湯浅監督が好きだから”観に行くという作品では無かったかな。
(また今作は監督が脚本を兼任していないから、滲み出る個性が少なめだったのかも知れない。)


登場アイテムは、湯浅監督の前作、『夜明け告げるルーのうた』と似通っている(海/水/歌)。

また水がブロックになって自在に動き回る様子もそう。
大事な人との別れも一緒。

前作で描き切れなかった消化不良なのか、それとも単に“水の表現”という新たな武器を手に入れて自分の個性として押し出していっているのか。


海は喪失とも誕生とも再生とも相性が良く、どんなテイストの物語ともマッチする。

海から生まれた生命。しかし海は、予想のできない荒波で死をもたらす場所でもある。
誕生と死。

波だってそう。
港がひな子に言う台詞「波は何度でもやって来る」。

ポジティブに捉えると、失敗しても大丈夫。またチャンスがやってくる。(港がひな子に言いたかったことはこちらだろう)

しかしネガティブに捉えると、予想出来ない波に脅かされ、びくびく過ごすことになる。


相反する解釈を持ち合わせている海と波をベースに、登場人物の喜びも悲しみも喪失も再スタートを乗せて進む。



そしてこの映画は、見えるものをそのまま受け取らずに、目を凝らしてそれを見るのが大事だと伝えている気がした。


港は、何でも楽々とこなす凄い人。
でも実は努力家だっただけ。
部屋の中は本や筋トレ道具でぎっしり。
そんな港の努力を死後になって知り、ひな子も後輩のわさびも変わろうとしていく。


港の妹、洋子は乱暴な言葉と毒舌で取っつきにくい女の子。
怒ってばかりだし。
言葉で想いを伝えるのは下手くそ。
その代わりに行動で自分の信念を表すかっこいいキャラクター。
兄の死後真っ先に行動し、兄の夢を引き継ごうと喫茶店でバイトを始める。


ひな子は僕のヒーローなんだと言っていた港。
ヒーローの意味が分かった時に、ひな子の時間も動き始める。


絵柄は全くもってリアルでも無いし、死んだはずの港が水の中に現れ水を操って助けてくれるなど、現実では起こり得ない。
そこを除いて、すごく現実味が強い。
帰ってこないものは帰ってこない、喪失の悲しみを抱えながらも生き続けないといけない無情さを伝えてくるそんな映画だった。