古典芸能に関しては高いハードルを感じている。
あらすじを理解できないかもしれない、途中で寝てしまったらどうしよう、チケット代も高そうで手が出せない。
ただ今回ご縁があり、観劇することになった。
マイナスイメージからの出発。私にも面白味は分かるのだろうか。

主催者の木ノ下裕一さんは、古典芸能を現代劇にすることで、色んな人に観てもらおうと画策されている。
今回の劇は、元々『俊徳丸伝説』というものがあり、それをベースにした文楽及び歌舞伎の『摂州合邦辻』を現代人にも分かりやすいように整え、大胆にミュージカルに生まれ変わらせている。


【あらすじ】
20歳そこらの娘、玉手御前は河内の大名と結婚するが、先の妻の子、俊徳丸に禁じられた恋をする。
暫くし、業病にかかった俊徳丸は、迷惑をかけまいと突然失踪する。
追う玉手。同じく俊徳丸を探す婚約者の浅香姫。
彼らの運命はどうなるのか?


【舞台】
舞台上に角材が何本かあり、立てたり倒したりして場面を変えている。
空間の切り取り方が上手く、場面のソトとウチの切り分けを角材だけで行っているのがすごい。
アイテム自体はシンプルだけど、移動の動線を意識して緻密に移動設計図が組まれていて感心する。
しかもそれによって暗転することなく場面転換しているため、本編が間延びせずに最後まで集中して観劇できる。

転換をいかにスムーズに行うかはかなり意識して劇を作られているのではないかと感じた。
上の角材の移動による場面転換、加えて出番ではない演者自らが運びセットする。
本来の歌舞伎は4時間程度かかるらしいから、歌舞伎元来の魅力を極力盛り込みながらも2時間半で終わらすとなるとこういう工夫が必要なんだろう。


【演者】
玉手御前役の内田慈さんがすごく妖艶で引き込まれた。
執念深く追い続ける姿は怖いのにそれでも美しく、安珍清姫伝説の清姫みたいだ。

演者は出番でないシーンでも舞台セットを動かしたり、歌ったり踊ったりと殆ど休憩する時間がない。
また劇中で、バイオリンとトランペットが入るシーンがあり、演者が生演奏しているのに驚いた。

衣装は和服ではなく、皆洋装だ。ミュージカルの西洋の動きと、日本の伝統芸能的な和の所作を行ったり来たりで切り替えが大変そうだ。


【物語】
原作でも散々議論の的になったテーマについて。
玉手の俊徳丸に対する気持ちは恋なのか?それとも親子愛か?

個人的には恋であってほしい。
理由があるとはいえ、息子を自らの手で病気にするというのは何とも鬼のようではないか?
守るためとはいえ、そんなに大病にかからせる必要はないのではないか。
恋愛による怨念で、振り向いてくれないならいっそ困らせてやろうというエゴの方が見ていて清々しいし、20歳そこらの娘の熱情としてしっくりくる。

もちろん親子愛も混ざっているとは思うが、それよりかは“家”への献身の方がスマートに受け取れる。


【まとめ】
主催の木ノ下さんの思惑通り、原作ではどうなっているのか、どう読みといたからこの劇の構成にしたのかなど比較して鑑賞してみたくなった。
ただ文楽、歌舞伎はまだまだ取っつきにくいイメージではあるので、分かりやすい解説書を読んだりして物語の面白味や、現代でも通じる価値観や逆に違和感を楽しみたいと思う。
古典芸能の鑑賞自体はまだ先になることだろう…


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