【南海トラフ地震「高確度の予測は困難」】
NHK
5月28日 19時13分
南海トラフで想定される巨大地震の被害想定などを検討してきた政府の検討会がまとめた最終報告に、「南海トラフで起きる地震を高い確度で予測することは一般的に困難である」という専門家の検討結果が盛り込まれました。
国は南海トラフで起きる地震のうち、「東海地震」は予知できる可能性があるとしてきましたが、今後、研究や観測態勢の在り方が議論されることになる見込みです。
地震学者の間では、巨大地震が発生する前に地盤がずれ動く前兆現象が起きることがあると考えられています。
国は、南海トラフで起きる地震のうち「東海地震」は前兆現象を捉えて唯一予知できる可能性があるとしていて、気象庁が地盤の変化を捉える観測機器で監視を続けています。
これについて政府の検討会は、南海トラフで起きる巨大地震で直前に地盤の変化が起きるという考え方で規模や発生時期を予測できるのか検討しました。
その結果、▽地盤の変化を捉えられないまま地震が発生することや、▽変化を捉えられたとしても地震が発生しないことがありうるとして、「現在の科学的知見から南海トラフで起きる地震の規模や発生時期を高い確度で予測することは一般的に困難である」という見解をまとめました。
そのうえで地震の予測は人命を救ううえで重要な技術であり、今後とも研究を進める必要があるとしています。
報告書では、「東海地震」については具体的に触れていませんが、今後、南海トラフの地震の研究や観測態勢の在り方が議論されるなかで「東海地震」についても検討されることになる見込みです。
気象庁はデータ監視続ける
政府の検討会が地震の予測が難しいという見解をまとめたことについて、気象庁は、東海地震の前兆となる地盤の変化を捉えるという取り組みを否定されたわけではないとして、データの監視を続けています。
東海地震は、駿河湾周辺で陸側のプレートとその下に沈み込んでいる海側のプレートがずれ動いて起きると想定されているマグニチュード8クラスの地震です。
プレートがずれ始める際には地震でずれ動く前に「前兆滑り」と呼ばれる僅かな動きがあると考えられていて、それを捉えるために気象庁は地盤の変化や地震を捉える観測機器で30年余り前から24時間態勢で監視をしています。
地震の予測が一般的に難しいという政府の検討会の見解について、気象庁地震予知情報課の土井恵治課長は「東海地震の前兆となる地盤の変化を捉えることができないと否定されたわけではないので、東海地震の監視の仕組みをすぐに変える必要はないと思っている。東海地震の震源域周辺で地盤変動など異常が観測された場合は、地震が起きる危険性がふだんより高まっている状態と考えられ、変化を見逃すことなく監視して必要な情報を出していきたい」と話しています。
東海地震の判定会の会長で、東京大学の阿部勝征名誉教授は「予測が難しいという見解に反論はないが、地震の直前に起きると考えられている『前兆の滑り』と呼ばれる現象は予知できる可能性がある。可能性があるかぎりは放棄せずに全力を尽くすことが国民に対する義務だと考えている」と述べました。
そのうえで、「地震予知の内容が昔考えられていたほど確実性はなく、地震が起きるか起きないかという不確実な内容を含むなかで防災対策をどうとるかは、判定会ではなく今後国が検討を進めるべきだ」と話しています。
【「東海」予知にも否定的 南海トラフ地震最終報告】
日本経済新聞
2013/5/28 21:10
内閣府の調査部会(座長・山岡耕春名古屋大教授)は28日、南海トラフを震源域とする巨大地震の発生について「確度の高い予測は難しい」とする報告書を公表した。
震源域の一部がゆっくり動き始める前兆すべりを事前にとらえ、地震の時期や規模、地域を確度高く特定するのは困難と指摘。
国内で唯一予知できるとしてきた東海地震を中心に進める防災対策が抜本的な見直しを迫られそうだ。
山岡座長は南海トラフ沿いの地震について「今まで東海、東南海、南海の3つの領域に分けてきたが、(地震のパターンは)多様性がある。
東海を特別扱いするのはもはや科学的に十分な根拠がない」と語った。
古屋圭司防災相は「南海トラフ全域を対象に議論していく必要がある」と述べ、政府内に議論の場を設ける考えを示した。
報告書は、プレート(岩板)境界で普段と違う変化が観測されたときには「地震が発生する危険性が普段より高まっているとみなせる」との立場を示した。
ただ、南海トラフのどこで、どの程度の規模で起きるかなどの予測は難しいと結論づけた。
1978年に制定された大規模地震対策特別措置法では、東海地震に限って気象庁が2~3日から2~3時間前までに前兆すべりを観測し、首相が警戒宣言を出すことを想定している。
報告書は、予知の前提となる前兆すべりについても「十分な観測網がある地域は限られ、(過去に)確実な観測事例はない」とした。
1944年の東南海地震の直前に前兆的な地殻変動があったとの考え方に対しても、データ不足から疑問を呈した。
【南海トラフ巨大地震】
中央防災会議 対策の最終報告 要旨 自宅被害を選別、軽微なら待機も
2013.5.29 11:55
【はじめに】
超広域で強い揺れと巨大な津波が起こる。東日本大震災を超える甚大な人的・物的被害が発生し、国難ともいえる巨大災害になる。
経験したことのない災害になることを踏まえ、最悪の被害を念頭に対策を考える。
迅速で主体的な避難行動が取れるよう自助、共助の取り組みを強化、支援する必要がある。
被災地域以外からの支援が限定的にならざるを得ない。
復興が長期化すれば国としての存立に関わる。
【対策の基本的方向】
1、対応の考え方
(1)津波からの人命の確保 目標は「命を守る」。
住民一人一人が主体的に迅速に避難することが最も重要。
即座に安全な場所に避難できるよう地域ごとにあらゆる手段を講じる。
津波による被災は、地形や津波の威力の影響で地域ごとに実情が大きく異なるため、重要施設の立地の見直しや土地利用の変更など、長い時間をかけても地域の最良の方策を検討する。
(2)甚大な被害への対応 被害を減らすため、建物の耐震化や揺れに伴う火災への事前防災が極めて重要。
ライフラインやインフラの早期復旧がすべての応急対策の前提。
救命活動や避難者への対応を誤れば社会の破綻を招きかねない。
一人一人の居住スペースの「揺れへの強靱(きょうじん)さ」という観点での対策も重要。
(3)超広域にわたる被害への対応 従来の応急対策や支援システムが機能しない。
日本全体として連携の枠組みが必要。
避難所不足が想定され、家を失うなど弱い立場の被災者受け入れを優先、住宅被害が軽微な被災者は自宅にとどまるよう誘導する「トリアージ」(選別)を検討する。
水や食料など1週間分以上を家庭で備蓄、地域で自活する備えが重要。
交通が復旧すれば被災地外への疎開を行うことも検討する。
(4)国内外の経済に及ぼす影響 企業は災害時の事業継続計画をつくり、流通拠点の複数化や重要データの分散管理など対策を取ることが重要。
企業間や業種を超えた連携も検討。
復旧が遅れた場合は生産能力の海外流出など国際競争力が低下する恐れもある。
(5)揺れの強さに応じた対策 千年に1度またはそれ以下の頻度で起きる巨大地震・津波をすべての対策の前提とするのは現実的ではない。
津波対策はマグニチュード(M)8級を対象として防波堤などを整備するが、それを超す場合に備えた構造強化も重要。
住民避難を軸に情報伝達、避難施設、避難路などハード、ソフト対策を総動員する。
2、対策を進める枠組み
(1)体系作り 対策推進のための法的枠組みを確立。
予防から応急、復旧・復興までの対策のマスタープラン策定とともに、事前防災戦略として目標や達成時期を示したプログラムを明示。
東日本大震災の教訓も踏まえ、応急対策の具体的な活動計画を策定。避難施設や避難路を整備するため、必要な財政上、税制上の措置を検討する。
(2)対策を進める組織整備 国や自治体、民間が広域連携する南海トラフ巨大地震対策協議会を活用し、防災計画の策定や訓練など横断的な課題を検討。
法制化も検討する必要がある。
(3)戦略的な取り組み 府省を超えた産学官民の連携が必要。
災害に関する情報を理解し判断できる能力を養う防災学習や、国や自治体の防災担当職員の人材育成。
国はガイドラインを整備する必要がある。
(4)科学的知見の蓄積と活用 地震津波の分野だけでなく、まちづくりや過去の地震被害の伝承などさまざまな学問分野と連携。
緊急地震速報は迅速性と精度の向上を図る。
津波到達時間や津波の高さの予測精度を上げる検討も進める。
【実施すべき主な対策】
▽高台移転
避難が困難な地域では住民に合意がある場合、高台などへの集団移転も有効。
住民に危険が生じる恐れがある地域は、住民が選択し、一定の建築制限を適用することが必要な場合も考えられる。
▽津波避難
市町村は地域防災計画や都府県の津波浸水想定を踏まえハザードマップの作成、見直し、周知を進める。
公共用地や国有財産も有効利用し避難場所や施設を整備。
津波避難ビルを増やすため建ぺい率緩和や民間活力導入に取り組む。
▽災害時要援護者
自力で避難が困難な高齢者や障害者の名簿を作成、地域で支援を行う。
日本語が理解できない外国人に配慮し、多様な言語で分かりやすく情報提供する。
▽医療
被災地の医療機能を確保するため、移動式救護施設を用いた野外病院開設を検討。
災害拠点病院を中心とした医療機関は浸水対策、非常用発電施設の上層階移設と燃料の確保、衛星電話、飲料水・食料・医薬品の備蓄、ヘリポートの充実を図る。
▽ボランティア
地域のボランティア活動が住民や医療機関と日常的につながりを持つことが重要。
国や自治体は、国民的な運動となるよう支援する。
災害時のボランティア活動には危険が伴うため、必要な知識を得るための研修を開く支援を行う。
▽帰宅困難者
駅や路上に膨大な人々が滞留する事態は危険。
「むやみに帰宅しない」原則を周知する。
家族との安否確認手段の優先順位を決めておく。
企業は水、トイレ、休憩場所を提供する支援体制の整備に努め、自治体はトイレや避難所の衛生環境を保つ対策を進める。
▽情報伝達
津波警報や避難の呼び掛けなど生命に関わる情報を確実に伝えるため、防災行政無線、ラジオ、携帯電話、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)などの利用の多重化、多様化を進める。
▽避難所の運営
自治体職員が主体的に関わることは困難。避難所の管理者や自主防災組織が避難所を運営する体制を整える必要がある。
▽住宅の耐震化
国や自治体は、住宅に住みながら耐震改修できる手法の開発を支援。
特に建て替え需要が発生しにくい高齢者の住宅は、生活時間が長い部屋だけを部分的に耐震改修する取り組みを充実させる必要がある。
▽権限の明確化
東日本大震災で庁舎や首長、職員が被災し、行政機能が著しく低下した事例があったことを踏まえ、代替拠点の確保、重要情報のバックアップを図る。
首長や幹部職員が不在の場合の代理の権限を明確化する。
【今後検討すべき課題】
南海トラフ巨大地震の発生確率を推計するための調査・研究を早急に実施する。
地震予測は人命を救う上で重要な技術であり、今後とも研究を進める必要がある。
今後の調査・研究、観測のあり方について検討を進め、中長期的な対応を含めた新たな防災体制のあり方を議論すべきである。
>【おわりに】
関係機関は速やかに計画の策定、見直しを行い、具体的な対策を進める。
状況に応じ、10年程度をめどに対策の見直しを行う。
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