2009年7月

時は遡り、7月末
志帆里は、ひとり湖の畔で読書をしていた。
体の弱い志帆里にとって、夏の日差しの中
なかなか遊びに行けず、一人で木陰で読書をするのが唯一と言って良い楽しい時間だった

そこに、鳩が手紙をくわえて……
って言うのは冗談でポストマンが遠くから声をかけていた

「佐山さ~ん、郵便で~す!」

「いつも、遠いところまでありがとうございます」

志帆里は、手紙を手にそのポストマンに、にっこり笑いお礼を言いながらも手紙が気になるそぶりを見せていた
それもそのはず、今年は高校最後の夏休みで長期の外出が医者から許されたのだ

この手紙も、まだ完治はしていないが、回復に向かってる志帆里へのお祖父様からのプレゼント
最近巷で流行りの離島の旅館『氷炎館』の宿泊券と手紙が同封されていた
≪志帆里へ  
今年は外出が許されたようじゃのう
それで、儂からのささやかなプレゼントじゃ氷炎館と言う旅館を知っとるかのう?
一日4組しかとらない旅館で、特殊な趣向が若者の間で流行ってるところらしいで、そこの宿泊券を用意したぞ
友達と行ってこいと言いたいところじゃが体の事も心配じゃから、今回はお姉ちゃんと二人で行っておいで

帰ってきたら楽しい思いで話を聞かせておくれ
                                       佐山    柳次郎より≫


「お姉ちゃんと旅行か~、久しぶりだから楽しみだな~」

志帆里の姉、茉里(まり)は26歳で看護師をしている
志帆里も楽しめて体の事も考えての柳次郎の配慮だった


「ありがとう、お祖父様」
「早速、旅行の準備しなくちゃ」

ニコニコの志帆里は、もう、旅行モード全開だった