第12場面

  末吉がよろめきながら、おおげさにわざとらしく仰向けに倒れる。

末吉 枕を~わ~す~れ~た。

小吉 末吉ぃいいいいいいいいいい。
   てめぇだけかっこつけやがってよぉおおおおおお。
   ズルイと思わねーのかよ。

テルミ  知らないわよ。
 
ルミ  枕を忘れたら、取りに行けばいいじゃない。ねぇ?マミちゃん。

マミ  ルミ先輩!彼は一生懸命なんですよ。

ルミ  そうね・・その通りよね。

歩   あたし・・歩です。

テルミ あたし勝ったのよね?帰ろうかな?

末吉  小吉兄・・長介兄、俺がやられた技はいったい何なんですか?

長介  あの技は、一子相伝・・口伝伝承によってのみ
    伝えられるという伝家の宝刀「この木何の木気になる木斬り」だな。

ルミ  あれさ、日立電気の歌よね?
 
小吉  俺も初めて見たんだけどよぉお。現・伝承者が生きていたなんて
    知らなかったんだぜ。

マミ  日曜日だったと思うんですけどね・・大きな木が背景にある
    CMソングだったと思うんですけど。

歩   多分、ドリフだよ全員集合の後だったと思いますよ。

テルミ  知らなかったわよ・・あたし。
     伝家の宝刀「この木何の木気になる木斬り」の現・伝承者だったなんて・・。

歩    え~と、テルミさん良く頑張りました。もうこっちに来てもいいと思いますよ。

末吉   俺は負けたんでしょうか・・。

ルミ   テルミちゃん・・成長したわね。

小吉   いや・・勝ってるぜ。俺達の中では貴重な一勝だぜ。

マミ   テルミ先輩は良く頑張りました・・テヘッ。

長介   あんなド卑怯なやり方で勝つなんてよ・・。
     婦警の風上にもおけねぇな。
     末吉がよっぽど全うじゃねぇかぁ。

マミ   そうね・・次で最後の勝負になるのかしら。
     あたしが相手になるしかないわね。

長介   望むところよ。このままじゃ収まる物も収まらねぇ。
 
        第13場面
 
テルミ  これが、ファイナルラウンドってやつ?

歩     え・・? ファイナルアンサ~?

小吉   ファイナルラウンドだよ!バーカ。

末吉    そうだ~。そうだ~。 

歩     カチーン・・。

ルミ    歩さん。どんまい。

マミ    歩ちゃんは頑張ってるから良いの。

長介    そんな英語も知らないんじゃな・・ハァ。
      とりあえず俺が好きなこの曲行ってみようか!

       スタンハンセンのテーマが流れる。

歩     ハイハイハ~イ。あたし知ってるもん。
      スタンハンセンのテーマよね。

長介    俺と勝負する婦警さんよ、
      こちらに来てもらおうか?

ルミ    こうなったら3連勝よ。なんか勝てる気がする。
 
テルミ   というか・・あたし達、勝ってるよね。

歩     スタン・・ハンセンだよね・・・。

マミ    そうだよ~。歩ちゃんは間違ってないよ。 

    
      長介とルミが見合う。
      長介が懐から、15cmぐらいの糸が括り付けられた
      5円玉を取り出す。
     
    (その間を埋める為に何かメロディーを口ずさむのも有り)
      

長介   これが何だか分かるかな?・・そう5円だ。
     どうして5円だか分かるか?
     5円だけに御縁・・な~んちゃって。
     笑えよ~面白いだよ。
 
小吉   恐れいったぜ~長介兄。
     5円だけに御縁カッコいいぜ。
     俺には真似できねぇよ。

末吉   小吉兄~見てみろよ。
     あまりのカッコよさに倒れ掛かってんじゃねぇかぁ。

ルミ   ルミなのね・・。

長介   5円だけに御縁だぜ・・ルミさん。
 
小吉   末吉よぉ・・他の婦警さんもお嬢さんも長介兄のカッコよさに
     倒れ掛かってんじゃねぇかぁ。

  
テルミ  テルミなのね。

マミ   マミだもん。

歩    私・・歩です。

長介   これから、俺様の美技に酔いなぁ。

ルミ   な~に・・まだあるの?流石にルミお姉さん参ったわよ。

小吉   来るぞ。

末吉   もう長介兄のペースだもんなぁ。

歩    あ~跡部景吾だ。

テルミ  (指でジェスチャーを加えて)シー。

マミ   歩ちゃん・・スルーしよう。

歩    そうね。
 
    長介が徐に、振り子の如く
    糸が括り付けられた5円玉を揺らし始める。

長介  ルミさんとやら、この5円玉を瞳で追ってみろ。

ルミ  もう追ってるわよ・・。

長介   お前は段々眠くな~る。お前は段々眠くな~る。

テルミ   え・・噓でしょ?催眠術の使い手なの?

小吉    おうよ!長介兄はすげぇんだぜ。

末吉    こうなったら、長介兄の勝ちなんだぜ。
 
歩     ここに来て、まともになるんですか?

マミ    ルミ先輩!・・返事がないなんて・・嘘でしょ。

長介兄   お前は段々眠くな~る・・・・・。

       長介が眠ってしまう。

ルミ   今さ、あなた眠ってなかった?

長介   眠ってねぇよ~。眠ってねぇ眠ってねぇ眠りたくもねぇ。
     眠ってねぇ野郎がそう言ってんだ。細かい事は気にすんじゃねぇぞ。
     そこはスルスルーだ。

小吉    長介兄は眠ってねぇ~。眠ってねぇ~たら~眠ってねぇ。
 
末吉    あ~その通りでぇ~ござ~いま~す。

     (できるなら、歌舞伎役者のような雰囲気で演出ができたら尚良しです。)

テルミ   そんな事してごまかしてもダメよね。ね、マミちゃん歩ちゃん。

ルミ    テルミちゃん・マミちゃん・歩ちゃん・・あたし耐えてるの・・。

長介    耐える事ができねぇなら、敗北宣言してもいいんだぜ。

テルミ   あたしは眠ってないと思いま~す。
マミ    そうです・・そうなんです。本当に眠ってません。

歩     そうゆう事にしようと決めました。

長介    次で、本当に本当に本当に決着だ。
      まさか・・あれを使う事になるなんてな。

ルミ    いいわよ。いいわよ。こうなったら最後まで付き合うわよ。

小吉    長介兄にここまでさせるなんて・・てめえらが初めてだぜ。

末吉    中々、骨がある奴らじゃねぇか。
      ちょびっとなら認めてやるぜ。

長介    俺が本気になるなんて・・姉さん以来だぜ。

テルミ   もったいぶらなくていいじゃない。
      早く見せなさいよ。

マミ    いい加減疲れちゃった。

歩     本当は面白い人達ですか?
      ただそんな気がしただけなんですよ。

長介    いくぞ・・お前は俺に土下座する。お前は俺に土下座する。
      お前は俺に土下座する。(しばらくリピート他のセリフに干渉しないように。)

      次のセリフまで、長介は段々と姿勢を整えてください。
 
小吉     末吉よぉ・・長介兄は最高の兄貴だぜ。

末吉     そうだよ・・小吉兄。長介兄は最高の兄貴だ。

歩      そうだ・・そうゆう事だったんだ。
       そうよね。お母さんお母さんよ。
       ねぇ、お母さんと知り合いなんでしょ!
       悪の3人組さん!

テルミ    何よそれ?

マミ     歩ちゃん?

長介    俺が俺が俺が・・お前に土下座するぅううううううううううう。  

  
ルミ    あなたが土下座していいのかしら。
      本当に面白いわね。
      悪の3人組さん。

テルミ   それじゃ・・嘘だったのよね。
      はなから命を奪う気もなかったって事になるんだ。

マミ    それじゃ・・その、えぇえええ・・分かりましたよ。

ルミ    あたし、笑われてもいい。
      良く分かんないけどこの人が大好きです。
      そして、この曲が大好きです。
      ミュージックスタート・・お願いします。

      タケチャンマンの歌が流れる。

ルミ    私が初めて憧れたヒーロはタケチャンマンでした。
      いつだって、あたしを笑わせてくれたヒーロだったのです。
    
       長介がすっと立ち上がる。
 
長介    ルミさんか・・俺を斬ってくれないかな。

ルミ    そうね・・。間が持たないわね。斬ってあげるから
      早くはけなさいよ。
      (アドリブで長介だけ2~3回斬られてもいいですよ。)
       
       
       長介が下手にはける。

ルミ    タケチャンマンLOVELOVE斬り
 
       
 第14場面
   長介がゆらゆらと下手から登場して、
   わざとらしく、仰向けに倒れる。

長介 もっと斬られたかった・・長介でした。

歩む  あ~なんか言ってる。
 
小吉 長介兄ぃいいいいい・・。大丈夫かぁあ。
   ちきしょうぉおおお。長介兄をここまで斬るなんて・・
   なんて野郎なんでぇぇぇ。いったい何者なんでぇあの婦警さんはよぉお。
 
長介 あ・あ・あの婦警は、タケチャンマンLOVELOVE斬りの現伝承者だったんだ。

テルミ あの・・良く分かんないんだけどさ、大変みたいだし
    救急車呼んだ方がいいのかな?

小吉  あぁっ!救急車だと?それまで長介兄が持つのかよ?
    LOVELOVE斬りの現伝承者って何者なんだよちきしょうぉお。

マミ  えぇぇぇ!何でそっちなのよ!!

長介  ビートたけしさんを、この上なく愛する女性にのみ、
    口伝伝承される・・幻の必殺技な~のだ。

ルミ  あたし・・某ディレクターと知り合いなの。

テルミ え・・嘘でしょ。

ルミ   ふぅ・・。

末吉   あの婦警さん・・すごい人なのお馬鹿な人なの?
     どっちなんだよ長介兄ぃぃい。

長介   とりあえず・・すごい人にしよう。

歩    とりあえずって何なのよ・・・。
 
小吉   婦警さん・・あんたすごい人だったんだぜぇええ。

末吉   長介兄をここまで、ここまでフルボッコするなんて、
     婦警さんすげぇよぉおおおおおおお。

ルミ   あたし、引き下がっていいのよね。

歩    ちょっと待ってよ。

ルミ   え・・。

歩    あ、すみません。ルミさんじゃないんです。
     あたしが、話をしたいのは悪の三人組さんです。
 
小吉   俺達には話をする事ないんだけどなぁあ。
 
歩    とぼけないでよ。

末吉   とぼけていませんよ・・別に。

テルミ   ルミ先輩の「本当に面白いわね。」その言葉で分かったわよ。

マミ   あたしも分かりました。

長介   何が分かったってんだぁ?

ルミ   あたしは、歩ちゃんより早く気付いていたわよ。

歩    悪の三人組さんは、お母さんの知り合いなんでしょう・・。
     お母さんに頼まれてさ、何が面白いか伝えに来たんでしょ!
     だとしたら、何でこんな回りくどい事してんのよ!
     ねえ!お母さんは元気なの?何処にいるのよ!
     あたし・・お母さんの大道芸で子供から大人まで、
     多くの人が興奮して笑顔になっていくのを見て・・、
     お母さんみたいな大道芸人になりたいと思ったのに・・・。
     どうしてお母さんが傍にいないのよぉおおお。
     あたし、どうしたらいいの?誰を手本にしたらいいの?
     教えてよ・・あたしお母さんに会いたいだけなのよ・・。

マミ   歩ちゃん・・ごめんなさい。傍にいたはずなのに・・・。
     あたし何も分かってなかったのかな?

テルミ  強がるにも程があるわよ・・無理やり明るくしてたのかな?
     そうだとしたら、もっと素直になれば良かったのに・・。
     暗くなるのが嫌だったのかな・・。

ルミ   私達と会った時から、これだけ深い想いを抱えていたのね。
     言いたい放題で、自分の気持ちに絶対正直なあなた・・
     歩ちゃんは、あたしには良く分からないけど・・
     歩ちゃんは、十分面白いじゃない。
 
末吉   僕達は・・もうすぐこの場所から去ります。
     もう十分だから。

小吉   楽しかったぜ・・。久々こんな大舞台に立てたしよ。
     
長介   そうだな・・。その通りだ。なぁ、歩さんよぉ。
     今が、一番辛いのかもしれねぇ・・。苦しいかもしれねぇ。
     寂しいかもしれねぇ・・。でもなぁ、歩さんのお母さんは
     もっと苦しい辛い寂しいさ。
歩    そうだよ・・そうだ。

長介   それでも会えないなら何か理由があるはずなんだよな。
     きっと・・それは誰にも分からねぇんだよ。

テルミ  あたしには、分からないわよ理由って、
     あまりにもふざけてるじゃない?
マミ   本当にそんな理由かな?

ルミ   でも歩さんのお母さんは・・何処か遠くにいても、
     歩ちゃんを見守っているんじゃないかな?

末吉   そんな歩さんに届けたい言葉があるんです。

小吉   あぁ・・あれしかねぇな。
     流石に末吉分かってんじゃねぇか。

長介   それは「待てば海路の日和あり」って言葉だよ。
     いつかその日が来ると思ってよ・・、
     今、自分ができる事を考えて想像して分かったらだな、
     それを一生懸命やるしかねぇんだよ。
     できる事しかできねぇんだ。

歩    お母さんに会えるまで、今あたしができる事を、
     一生懸命やるしかないんだ・・。
 
長介   また何処かであったら・・そん時は、
     歩さん・・よろしくって事だ。

小吉   よろしく頼むぜ歩さんよぉ。

末吉   よろしくお願いします・・歩さん。

      悪の三人組が下手にはける。

ルミ   そして、もうこの舞台は間もなく終わりを迎えようとしています。

テルミ  え・・嘘・・嘘よね?終わっちゃっていいの?

ルミ   えぇ・・終わっていいのよ。

マミ   え?・・あっそうか。終わり終わりです。

テルミ   は?何言ってんの?

    マミがテルミに耳打ちする。

テルミ   あ!そ・・そうね。終わって良いのよね。
 
歩    意味分かんない・・あたし伝えたい事たくさんあるのに・・。

マミ   歩ちゃん。大丈夫だよ。

歩    何が大丈夫なのよ・・。

テルミ  分かんない娘ね・・大丈夫ったら大丈夫なのよ。

歩    何?なんなのよ~本当に・・もう。
     「待てば海路の日和ありよ」いい言葉ね。
     分かったわよ・・あたし待つことにした。

婦警一同  それでは皆さんさようなら~。
      幕が閉じて、再び幕が開くまでごきげんよう。

歩     え?暗転しようとしてんじゃないわよ!。
      後ろの照明消えてるし。
      段々暗くなるのね・・。
      音響も・・フェードインしてるじゃない!!
      本当にこの舞台が終わっちゃうのねぇえええええええええ。

      完全暗転終了(歩ちゃんの台詞に合わせる形で
              音響照明フェードイン)   
     

    
1部の舞台が終わります。2部の舞台が始まるまで15分休憩を取ります。
   
   緞帳があるなら、完全暗転する間に緞帳を閉めてください。
   その間に、一人の男性に上手から登場していただきます。
   劇場の照明がフェードイン。
   その男性が台詞を言い終わったら、男性が上手にはけてく。
   次に、完全暗転する間に、緞帳を開いてください。
   舞台の照明がフェードイン。

   もし緞帳が無いのなら完全暗転した後に上手から
   一人の男性が登場し、照明を当てる。
   その男性が台詞を言い終わったら、男性が上手にはけてく。
   舞台の照明がフェードイン。

   一人の男(以下男1)が上手から出て来る。
  恰好は何かアメリカンな感じ。
  (ラッパズボンにラメ入りのジャケットに蝶ネクタイみたいな。)
   片手にはマイクを持っている。
   
男1  もしできたらですが?
   (ラララ~ラララ~ラララ)
   と何かその場に、その男に似合うメロディーを口ずさんでもいいと思います。

   呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン・・私は謎のレポータでございます。
   私の名前を知りたいでしょうか?しかし残念・・。
   私に名前を聞いたらいけない。
   私は皆様に、幾つかの話をしに来た者でございます。
   もしかして皆様~この舞台が終わったと思っている方いらっしゃいますか?
   終わってませんよ~1部が終わっただけです~。
   
   今からですね、15分の休憩となります。
   もちろん飲食可となっております。
   もし皆様の中に、トイレを使用したい方が見えましたら、
   最寄りのトイレを使って頂いて構いません。
   
   もし皆様の中に、この舞台を観て腹筋崩壊するぐらい笑った方がいたなら
   挙手をお願いします。
   私には分かります・・。挙手したくてもできない方々がいる事も、
   そして嘘だろうが正直だろうが、とりあえず手でも挙げとけという方がいる事も
   分かっています。分かっておりますとも!
   しかし、それは間違っても私の責任ではありません。
   故に、私を恨んだらいけない!私を憎んだらいけない・・私をいじめたらいけない。
   こんな脚本を作った脚本家をこんな舞台にしちゃった演出にその思いをぶつけましょう
   今から、マイクをですね客席に向けますので、渾身の思いをぶつけてください。
   せ~の・・・・。
   
   私には聞こえてきますよ・・。声にならない想いが声となって聞こえるような気がします。
   
   そして皆様の中に若干いらっしゃいますね。微笑んでいるんだけど笑い声が出ない出せない
   そんなあなた方を見てると、私は怖い・・怖いな~実に怖い・・。
   
   けれどしかし、そんな私を恨んだらいけない!私を憎んだらいけない!私をいじめたらいけない・・。
   
   その手にもっている缶をペットボトルを私に投げたらいけない!
   今まさに、食べようとしているポテチをパンをおにぎりを私に投げつけたらいけない。
   
   私の住所を調べて、何十通もの不幸の手紙を送り付けたらいけない。
   え~少々疲れました。
   私は何度も言いたくなるんです。
   こんな脚本を作った脚本家をこんな舞台にしちゃった演出にその思いをぶつけましょう
   今から、マイクをですね客席に向けますので、渾身の思いをぶつけてください。
   せ~の・・・・。
   言いたいことを言ってすっきりした謎のレポータでございます。
   (腕時計とかスマホ等で、残りの時間を確認して)
    残り5分少々ですが、その後第2部の幕が上がります。
    是非とも最後まで、ご覧になって頂きたいのです。
    何卒宜しくお願い致します。
    以上終わります。謎のレポータでした。
    
    去る時も、もしできたらですが?
   (ラララ~ラララ~ラララ)
    と何かその場に、その男に似合うメロディーを口ずさんでもいいと思います。
    謎のレポータが上手に去る。

 

 

 

 第2部

   第1場面
  
  お昼頃。ルミとテルミがデスクにおにぎりとお茶を用意し、
  食べようとっしている。
  そこに、巡回パトロールを終えたマミが帰って来る。

  マミが下手から登場する

マミ  ただいま戻りました。

ルミ  ごくろうさま。何か異常あった?

マミ  特に何もありませんでした。

テルミ  巡回パトロールかぁ。
     パトカー乗ってさ、やっと婦警らしい仕事ができたできたって、
     最初のうちは喜んだなぁ・・。

ルミ   マミちゃん。あれから歩ちゃんから、
     何か連絡あった?
 
マミ   それが・・なんにも。

テルミ  舞台終わってないんだけどね・・。
     まぁ、良く分かんないけど歩ちゃんのお母さんは、
     歩ちゃんを何処か遠くで見守っているって事よね?

ルミ   悪の三人組と自称していた彼らがもし?
     本当に、歩さんのお母さんと知り合いだとしたら?
     歩ちゃんは幸せよね。

マミ   そうあってほしいな。何が面白いかを歩ちゃんに伝える為に、
     悪の三人組はわざわざ来たんだもんな。
     結局いい人達だったんだなぁ。

テルミ  強いて言えば・・愉快犯ってとこ?
     わざわざ逮捕する気もないわよ。
     面白かったしさ。
 
     一人の中年の男性が下手から登場
     その正体は、歩の父親のゲンさん。

ゲン   すいませ~ん。どちら様かいらっしゃいませんか?
     私は、先日娘の歩がこちらでお世話になったと聞き、
     お礼を申し上げ、ついでに渡したい物があって伺いました。
     私の名前は、舞原ゲンと申します。
 
テルミ  娘の歩って聞こえたわよ・・もしかして。

ルミ   歩さんのお父さんかしら?
 
マミ   ゲンて聞こえたんです。間違いないですよ。
     渡したい物って何だろう。
 
ルミ   マミちゃん呼んで来てくれる?

マミ   はい・・・。
 
   マミが引き戸を開けるジェスチャー。
   ゲンが入って来る。

ゲン  失礼します。

テルミ  UNOでドロフォーを2連発くらって
     家出した方なんですか?
 
ゲン  は・・?それは違いますよ。
    全くの嘘です。
 
ルミ  嘘・・。嘘って?
    それでは本当の理由は?

ゲン  それは言えません・・。
 
マミ  どうしてですか!歩ちゃん・・すごい心配してたんですよ。
    お母さんに会いたいだけなのにって、泣きそうになるくらいだったんですよ。
    お父さんにも会いたいに決まってるじゃないですか?
    
    ゲンが懐から、手紙が納付されている一通の手紙を取り出す。

ゲン  全てはこの手紙に真実が綴られています。
    歩の母親のマリが綴った手紙です。
    できる事なら、あなた方からこの手紙を
    歩に渡してほしいのです。お願いします。
 
テルミ ご自分で手渡したらよろしいのでは?

ゲン  だから申し上げたはずです。
    私と妻は会う事ができないと・・。

テルミ  何でなのよ!
     どうしてなのよ!親子が会ったらいけないの?
 

ゲン  ちょっと話がそれますがよろしいですか?

ルミ  えぇ・・どうぞ。

マミ  どうしても伝えたい事があるというなら、
    どうぞ話してください。
 
ゲン  私と妻のマリは夫婦で大道芸人です。
    妻は有名なジャグラーなんです。
    それに引き換え、私は子どもにさえタネが分かるような手品師でした。

テルミ それやばくない?いや、だってさ・・ごめんなさい。
    子どもにタネがばれるようじゃさ・・。

ゲン  タネをあかすと、私のUNOのカードは全ての手札が2なんです。
    故に、何度シャッフルしても手に取るカードは2になるわけです。
    当然、勘の良い子どもには気付かれました。
    それでも、その子どもと周りにいた子ども達は変わらずに、
    足を運んでくれたんです。その訳を聞いたらこう伝えてくれたんです。
    「おっさんは楽しいし・・明るいし・・面白れぇもんな。」と・・・、
    とびきりの笑顔で・・。
    ちなみに、私の妻のマリは私よりも稼ぎが良かった。
    情けない自分がいました・・情けない私はマリに思わず聞いたのです。
    「どうして俺より稼ぎがいいのに、どうして俺の傍にいるんだ。」と・・。
    そうしたら、マリは私に平手打ちを頬に喰らわして泣きながらこう言ったのです。
    「子どもに好かれる・・あんただからでしょ。もっと自分に自信をもちなさいよ!」と・・。

テルミ そうだったんですね・・。何も知らずに勝手な事ばかり口にして、
    申し訳ありませんでした。
 
ルミ  それが本当の理由とは思えないけど・・もういいです。
    その手紙は読まずに・・歩さんに渡します。

マミ  一つだけ教えてください!どうして歩ちゃんが言ったそうですね。
    お父さんとお母さんみたいな大道芸人になりたいと・・。
    なんでその翌日に急にいなくなったんですか?

テルミ  それもそうね・・訳わかんない理由まで残して・・。

ゲン   何故ならば、それが本当の理由に繋がるからなんです。

ルミ   どうゆう事か・・全然見えないんですが、この手紙を
     歩さんに渡す事をあなたに約束しましょう。
     だから、いつか必ず歩さんに会いに行くって・・約束してください。
     お願いします。

ゲン   わたしとマリは決めている・・いつかその時が来たら、
     二人揃って歩に会いに行くと・・・。まだその時が来ていないのですよ。
     私とマリだって・・歩に会いたい会いたいんです。
     余計な心配は無用なのです。
     私とマリは、いつかその時が来た時・・私とマリと歩は三人揃って笑っている事でしょう。
     お世話になりました・・失礼します。
 
      
         ゲンが下手にはける。
    舞台が暗転。
 
 
       第2場面
 
    その後、舞台照明がフェードイン。
    ルミとテルミは板付き
    デスクに向かい座ってる.
 

 ルミ  今日だったよね。歩さんが来るの。
 テルミ はい。今マミが迎えに向かってる途中です。
 
     ルミが机の引き出しから、
     ゲンから渡された手紙が納付された封筒を取り出す。
 ルミ  やっと、今日これを歩さんに渡せるのね。
     約束通り、読んでないわよ。

 テルミ 当たり前です。それは犯罪ですから。

 ルミ  分かってわるわよ。あたし婦警だもの。

  
  マミと歩が下手から登場する。
 
歩  あのさ、何度も聞きたくなるんだけど・・。
   本当にお父さんが来たの?

マミ 何度も言うけど本当に来たの。

歩  なんであたしに会いに来なかったのよ。

    
    マミが交番の引き戸を開ける。

ルミ   歩さん・・来たのね。
     良かったぁ。

歩    一つ気になるんです。
     どうして父は私に直接会いに来なかったんですか?
     婦警の皆さんに聞いても仕方ないかもしれないけど。

マミ   理由があるらしいの。
     それは、ここにいる誰もが聞いてないよ。
 
テルミ  あなたのお父さんがこんな言葉を残したの。
     今から渡す手紙にね、
    「全てはこの手紙に真実が綴られています。」
     あなたのお母さんが綴ったらしいのね。
   
     
ルミ   この封筒の中にその手紙が入ってるわ。歩さん・・。

      ルミが歩に手紙を渡す。
歩    お母さんが綴ってお父さんが渡した手紙なんだ。 
 
ルミ   去り際に言い残したのよ。
    
    「わたしとマリは決めている・・いつかその時が来たら、
     二人揃って歩に会いに行くと・・・。まだその時が来ていないのですよ。」
     だからさその時がきたらさ、御両親と歩さんは必ず会える。

歩    その時か・・ありがとうございます。
     この手紙にはお父さんのお母さんの想いが
     綴られているんだ。
        
        舞台が暗転した後、歩だけに照明が当たる。
 

歩   舞原・・歩へ。

    手紙でごめんね・・歩。
    歩が今、一番気になっている事は何かな? 
    
    お父さんとお母さんが歩の目の前からいなくなった理由?
    そうね、お母さんが男を手玉にとったとか、
    お父さんがね、UNOでねドロフォーを2連発くらったから、
    歩の目の前からいなくなったとか・・嘘よ。
    
    本当に嬉しかったの・・。
    「お父さんとお母さんみたいな大道芸人になりたい!」歩がそう話してくれた事。
    だからこそね、家を出たのよ・・。恨んでいいわよ歩。
    一人でお金を得る事ができるようになっていたしね。
    
    何故だか分かる?歩がお父さんとお母さんの真似をしてしまうからよ・・。
    そうしたら歩が・・大勢の方々から笑われてしまうの。
    親を真似をするくらいなら、そんな事しなきゃ良かったのにと。
    
    いつまでも独り立ちできない大道芸人になってほしくないからよ。
    私の可愛い愛娘の舞原歩だものね・・歩ちゃんは。
    これが本当の理由なの。たった一つの真実よ。
    そして、お父さんとお母さんが、歩に会いに行く時は、
    歩が沢山の笑顔に囲まれて、微笑みに包まれている時なのよ・・。
    そしてね歩は、今まで生きてきて・・本当に良かったと、
    得意のにっこりにっこりスマイル微笑んでいるわね。
       
    そして、後ろからお母さんが抱きしめるわよ・・。
   「ごめんね・・歩。一人きりにして。」と謝るの。
    お父さんは子どもでも分かるような・・UNOマジックをするわね。
    二人で決めてる事なの。
    歩の傍でお父さんとお母さんは生きているわ。
    
   「待てば海路の日和ありよ。」私の座右の銘で、歩に贈る言葉よ。
    悪の三人組にも会ったかな?私の教え子達よ。
    その場の勢いで決めた名前なの「悪の三人組。」
    我ながら・・いいセンスしてるわね~。
    彼らにも同じ言葉を伝えたのね。
    いつになるか分からない・・。
    でも一日一日を無駄にせず、その時、その一瞬に歩ができる事を全力で頑張りなさい。
    大道芸は一瞬で決まるのよ。全てに通じるの。
    
    ・・・あら、やだ、説教くさくなったわね。
    一日一日、確実に歩める女性になるようにと願いを込めて「あゆむ」と名付けたの。
    「あゆみ」が良かったと言って・・泣いていた歩が懐かしいわ・・・。
    
    そろそろ終わりにするわ・・読んでくれてありがとう。
    最後に・・お父さんわね、私が手玉にとったのよ・・・。
    頑張りなさい・・歩。
    私の愛娘・・舞原歩へ。舞原マリより・・。

 歩 私は舞原ゲンと舞原マリの娘。
   私の名前は・・舞原歩です・・。 
 
 舞台の照明がフェードイン。
 
   
    
   Superflyの  
   愛をこめて花束が流れてくる。
   婦警さんが上手にはけて、簡単な手品道具を持って、
   歩に渡す。婦警さんもそれぞれ手品道具を持ってる。
   各々、手品を始める。
   その後、上手からマリとゲンから登場。
   同時に下手から悪の三人組が登場する。
   センター付近に集まり、歩ちゃんを見守り微笑んでいる。
   曲が終わるとともに暗転。
 
   終わり。
     
    
 
 
        第2場面