「母」を強く意識させられた巻だった。
四女仁衣の後輩で、長女イチの子の岳も友人になった山田の部屋を、
強烈で強引な母が唐突に訪れたせいかもしれないし、
三女茉子の「喫茶らんたん」で、
八条寺家の貸切母の日パーティーが盛大に開かれたせいかもしれない。

「ブランチライン」が「支線」の意味であることを踏まえると、
子の人生は母の人生とぴったり重なっているようでいていずれ離れていくものだし、
気がつくと子どもは母親とはまったく別の新しい人生を歩んでいるものだ。

やさしい岳は山田の母を「情熱的」だし「(山田を)守りたかった」と言うけれど、
当の山田は「略奪婚」するほどに我が強い母親にうんざりしている。
「離婚してて」「うち父親いないんで」と口にすると不幸な生い立ちにも見える岳だが、
自分では祖母と3人の叔母のおかげて「おもしろくて笑いが豊か」だったと思っている。

物語の序盤、四姉妹を紹介しつつ、こんな風にしか生きられなかったと描いてきたが、
いつしか岳や山田といった下の世代の男子が、
自分が見てきた母親の人生をベツモノとして語り始めている。

一方、八条寺家のグレートマザーである千さんの母の日パーティーには、
岳に誘われた山田もイチに誘われた占い師のヨナもいる。
彼らにとって八条寺家は親族ではないのだけれど、
岳(と仁衣)やイチを接点として強い縁を感じているし、
千さんに象徴される八条寺家の入りやすさや居心地の良さを感じているのだろう。
感受性の強いヨナはそれを「適当に適度な関心と無関心、底におおらかさ」と表現する。

あるいは、老舗の「onde」を飛び出した若手デザイナーの武人は、
師に当たる藤崎と和解すべく意を決して4年ぶりに「onde」を訪れる。
気負いすぎる武人に対し、藤崎の方は訣別したとも思っていない。
それもまた、一つの母子関係だ。

そして、もう一人、この巻から登場したメイクアップアーティストの山根だ。
山根が服の縫製にもくわしいのは、母がかつて(ondeの!)縫製工場で働いていたからだ。
久しぶりに山あいの郷里に帰った山根を母はハイタッチで迎える。
「うらんだり嫌ったりする」ことが「どうでもよくなっちゃった」からだろうか。
そんな母のことを、こっそり秘密のタカラモノで迎えてくれた母の義母も良い。

そんな中、ただひとり登場した父親は次女太重の同僚の桂木なのだが、
良い父親であろうとはしているものの、どうにも行き届かないさまが描かれ、
どちらかというと、娘の希実が太重に懐きかけているようでもある。
ここにも、新しいブランチライン(もしくは大きな八条寺家)の種がある。