荒野の四人 | 音楽でひとやすみ

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目まぐるしく動き続ける現代社会において、音楽による癒しの可能性を考察します。


 秋山ゆりかが卒業し、8月11日からチャオ ベッラ チンクエッティは4人体制となった。

 卒業発表後、メンバーが初めてファンの前に声を届けたのは、12日のラジオ番組だった。
 まず、岡田ロビン翔子のレギュラー番組であるbayfm78の「THE BAY☆LINE」。岡田はいつものように3時間の生放送を務めた。番組中に秋山ゆりかの卒業に触れ、「正直今も寂しい気持ちはある」「10年目にして最大のピンチだけどピンチをチャンスに変えていきたい」と述べた。メンバーの肉声による初の卒業報告だった。

 そして同日、NHKラジオ「ライブハウスR-1プラス」の公開生放送に出演。この番組は、インターネット投票によるランキング結果に基づいてセットリストが決まるという、歌い手に即興の適応能力が求められる形式だ。しかもこの日が4人になっての初ステージ、当然、歌割りやフォーメーションを変更して臨まなければならない。

 10曲の候補曲のうち投票の結果選ばれたのは、「NEVER NEVER GIVE UP」「二子玉川」「勇気スーパーボール」「全力バンザーイ!My Glory」「スタート」の5曲。多少歌唱に不安な部分があったものの、立派に4人体制の初ステージをこなした。その堂々とした歌いっぷりは、共演の吉川友をして「プロ根性を見た」「肝が据わっていた」と言わしめるほどであった。

 特筆すべきは、投票第1位がまだ音源化もされていない「スタート」だったことだろう。4人での新たなスタート、という意味は言わずもがなであるが、5人で最後のステージだった9周年ライブのラストもこの曲だった。4人になったメンバーと卒業した秋山ゆりか、各々が新たなスタートを切ったことを象徴している選曲だといえる。



 私はこの番組をラジオを通して聴いていたが、4人の歌唱の迫力は5人だった時よりもむしろ増しているように思え、鬼気迫る勢いだった。新体制でここまでできるのかと驚嘆した。
 また印象的だったのが、現場で観覧しているファンの声援の大きさだ。彼らも秋山卒業の発表を聞いたばかりで動揺や不安が収まらないまま現場に臨んだはずだが、メンバーを安心させようと、全力でエールを送ったのだろう。メンバーも、初めて4人で歌う現場にファンの存在があったことで力を得たに違いない。それぞれが不安を抱きながら、お互いに「大丈夫、安心して」と思いを交わし合う。メンバーとファンの強固な信頼関係によって、4人初めてのステージは成功を収めたといえるだろう。

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 翌13日、TOKYO FMホールにて、ラジオNIKKEI「チャレンジ フォー No1」の公開収録とアコースティックライブが開催された。こちらは事前に申し込んでいたので予定通り現場での観覧となった。
 開演前、会場の様子はやはりどことなく不穏な空気が漂う。しかしそんな空気も、開演とともに徐々に払拭されていく。前半のラジオ公開収録では、レギュラーの諸塚香奈実と橋本愛奈に、途中から岡田の乱入もあり、女子トークやお酒トークが和気あいあいと展開した。

 そして続くアコースティックライブ。ここでは印象に残った6曲について記しておこう。
 まず「私の魅力」。アコースティックでは定番であるが、やはり次の歌詞が心に響く。

  Ah やっぱり悔しくたって あいつなんて忘れるよ



この詞が卒業した秋山を暗示していることは言うまでもない。そしてその後、今のライブでは珍しい初期曲「サヨウナラなんて」が歌われたことには明確な意図が窺える。

  サヨウナラなんてしないよ したくないんだもん



「魅力」でいったんは強がってみたものの、やはり本心はこちらなのだろう。卒業からわずか3日、彼女たちとて、まだ卒業を完全に受け入れきれてはいない。この日のステージではメンバーから秋山ゆりかの名前が出ることはなかった。その代わりに思いの丈を歌に込めるあたり、さすがプロの歌手であると改めて認識させられた。だからこそ、歌詞のひとつひとつが心に沁みる。
 こうしてファンの涙を誘いつつ、アコースティックライブは穏やかに進行していく。しかし、そこで終わらないのがチャオベラである。

 後藤夕貴のソロ曲「Lovely! Lovely!」。この曲で後藤はコールを促し、それまでは手拍子だけで遠慮していたファンも、待ってましたとばかりに「ごとぅ」コールを叫んだ。



 ここで温まったステージは、続いて諸塚香奈実に託される。どんな現場でも盛り上がる最強曲の「キャモン」。ファンの盛り上がりも最高潮を迎えるが、諸塚自身もそんな盛り上がりに呼応すべく、「キャモンキャモン……」と連呼するくだりで、息が続く限り「キャモン」を連呼し続けるという行動に出た。これは急に思いついたらしく、他メンバーのロングトーン歌唱に対抗してみたくなったとのこと。最後には息を切らしてへたり込んでしまった諸塚だったが、「キャモン」というソロ曲を得て以来、彼女の意識が大きく変化したことを象徴づける一場面であった。この「キャモン連呼チャレンジ」は、秋ツアーの一つの目玉として継続していくことになる。



 そして、最後の曲は「二子玉川」。一言でいえば男女の別れ歌。しかしその歌詞の内容には、どうしても秋山ゆりかの卒業が重なる。歌い手のメンバーも、そして聴衆のファンもさまざまな思いを抱いたであろう中で、アコースティックライブは幕を閉じた。



 “事件”はその時に起こった。退場するメンバーを送る鳴りやまない拍手。それがいつしか手拍子になり、さらにアンコールの呼び声に変わった。
 通常アコースティックではアンコールがかかることは異例である。しかし、ファンの断ちがたい名残を惜しむ思いが、アンコールを求めるに至ったのだ。
 戸惑いつつもステージに戻ってくれたメンバー。しかし他に曲の用意はない。バックバンドと相談し、何とかできそうだとなったのが「永遠ファイヤーボール」。しかし肝心のメンバー側の歌割りが決まっておらず、さすがの岡田も不安の色を見せる。そんなとき頼りになるのが歌姫・橋本愛奈だ。「大丈夫、やれないことはない」。この一言でメンバーの心は決まった。歌いながらアイコンタクトで歌割りを決めていくという離れ業を見せ、無事にアンコールを果たした。



 このアコースティックライブを聴いたことで、卒業発表を聞いた時の「チャオベラは4人でやっていけるのだろうか」という私の心配は徐々に解消されつつあった。「この4人ならできるのでは」という予感が、この時既に生まれていたのである。

 そしてこの日、一つの重要な告知があった。それは、秋ツアーの発表である。ポッシボーからチャオベラに改名し、4人になって初のツアーは、9月27日の渋谷O-Westから始まり、12月27日の豊洲PITで幕を閉じる。豊洲PITは最大3000人を収容する大規模な会場だ。このツアーの成否こそ、今後のチャオベラの命運を握っているといえる。メンバーにとってはまさに正念場のツアーとなる。

 私は現場でこの報に触れ、嬉しいのはもちろんのこと、発表のタイミングが極めて迅速なことに正直驚いた。しかしこれは、4人の新体制となって、「一刻も立ち止まってはいられない」というメンバーの心意気なのだと了解した。パフォーマンスに心配の余地がないことは先ほどのステージで実証されている。4人がどんなチャオベラを見せてくれるのか、この目に確と焼き付けようと、密かに決意した瞬間だった。

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 それからの約一月半、チャオベラは各種のフェスやイベントに出演し、危なげないパフォーマンスを見せつけた。

 この間、私が観覧した中で、特に印象に残ったステージをひとつ取り上げておきたい。それは9月19日におこなわれた「Tokyo Idol Project」のツーマンライブ、相手はベテラン中のベテラン、Negicco。新潟を拠点に12年もの長きにわたって活動を続けている、チャオベラにとっても先輩に当たるアイドルグループだ。
 私はこの日初めてNegiccoのステージを観て、驚いたことがある。それは、彼女たちの言動に「ベテランの風格」や「先輩感」が微塵も感じられないことだ。やさしく、ふわふわとした不思議な空気感で進むMC。そのあまりのマイペースっぷりに、仕切りをさせれば天下一品の岡田でさえ困惑してしまうほどだ。しかしそんなMCとは裏腹に、いざ歌に入れば聴衆の心をしっかりつかむパフォーマンスを展開する。12年の積み重ねは伊達ではないことを実感させられるステージだった。
 対してチャオベラはといえば、「怖そう」「圧を感じる」「近寄りづらい」「ヤンキー」「大御所感」と、9年間ですっかり貫録がついてしまった(もっとも、実際のチャオベラはそんなに怖い人たちではなく、むしろ人見知りなだけなので「勇気を出して話しかけてみたらやさしかった」というコメントが共演のアイドルから寄せられることが多い)。アイドルというものは、苦労しながら何年も活動を重ねれば自然とそうなっていくのかと私は思っていたのだが、それは年数によらず、グループごとのカラーの表れだということをこの時に学んだ。
 それはさておき、両グループとも、10年前後の活動は決して順風満帆とはいかず、山あり谷ありでここまできた。その変遷は折れ線グラフで示されたが、両グループとも、グラフの最後は右肩上がりで終わっていたところに、未来への展望を持って活動を続けようとしている意志を感じ、頼もしかった。



 そしてこのステージで、我らが最年長・諸塚香奈実の発した一言、
「アイドルは若ければいいってものじゃない」
 20代のベテランアイドル、およびそのファンにとってはまさに天の啓示ともいうべき、ありがたい言葉だ。時折こうした名言を繰り出すから、諸塚は侮れないのだ。
 ともあれ、12年選手の背中を見せてもらったことで、チャオベラの4人も大いに刺激を受け取ったに違いない。またファンとしても、Negiccoファンの姿勢には見習うべきところが多々あり、さまざまな収穫を得ることができたツーマンであった。











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 そして迎えた9月27日。不安と期待が入り混じる中、秋ツアーの初日がいよいよ幕を開けることとなる。

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チャオ ベッラ チンクエッティ LIVEツアー2015秋
~THE STORY IS NEVER-ENDING~
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