毎日新聞 2012年08月18日 西部朝刊

 ◇帽子のつばにメッセージ

 第94回夏の甲子園第9日の17日、第2試合に登場した佐世保実(長崎)の二塁手、松山和博主将(3年)は、ピンチのたびに帽子を脱いで、つばに記されたメッセージを見つめた。「平常心 父より」。脳梗塞(こうそく)を患った元甲子園球児の父博之さん(56)が書いてくれた一言だ。「自分のプレーでお父さんを元気づけられれば」との思いで全力でプレーした。【春田周平】

 昨年6月4日。練習を終えて帰宅すると、博之さんが居間で倒れていた。呼んでも揺すっても動かない。慌てて119番した。前日まで元気だっただけに、その急変ぶりに言葉を失った。

 博之さんは佐世保工の選手として74年の夏の甲子園に出場。初戦で敗退したが、「大観衆の中で野球ができるのは本当に幸せだったぞ」と教えてくれた。松山主将は「いつか、僕も甲子園に」と気持ちを募らせた。

 昨秋、主将に任命された。博之さんは一命をとりとめたが、目が見えにくくなり、自宅で療養を続けている。「元気になってもらうには甲子園出場しかない」。思いを、より強くした。

 今夏の長崎大会。初戦の朝。母由里子さん(50)から言葉をかけられた。「帽子のつばを見て」。黒色ペンで「平常心」と書かれていた。博之さんが虫眼鏡を使って字を書く練習をしていたのを思い出し、涙が出てきた。「絶対、お父さんをもう一度甲子園に連れて行く」。心に誓った。

 今大会。初戦の札幌第一(南北海道)戦で、先制の適時二塁打を打った。博之さんと電話で話し、「次の試合も素直に打ち返せ」と助言を受けた。この日の宇部鴻城(山口)戦、チームは7-12で敗退したが、松山主将は中前安打を放った。松山主将は「アドバイス通り打てた。ここまでこられたのは父のおかげ」と話し、涙を浮かべた。スタンドで見守った由里子さんは「和博は精いっぱいやったと、夫に伝えたい」とたたえた。