毎日新聞 2012年08月21日 地方版
◇健闘ナインに拍手万雷
夏の甲子園大会第12日の20日、神奈川代表の桐光学園は準々決勝で今春のセンバツ準優勝の光星学院(青森)に0-3で敗れ、惜しくも4強入りを逃した。連投で先発した松井裕樹投手(2年)は、強打で鳴らす光星打線から15三振を奪ったが、八回に集中打を浴びて3点を失い、打線も光星の主戦・金沢湧紀投手(3年)に押さえ込まれた。「全国制覇」の夢は果たせなかったが、最後まであきらめずに戦い抜いたナインに、スタンドから万雷の拍手が贈られた。
▽準々決勝
光星学院
000000030=3
000000000=0
桐光学園
この日も松井投手が先発のマウンドに立った。前日の浦添商戦に続く連投だったが、試合前に「疲れはあるが、そんなことは言っていられない。初回から全力でいきたい」と力強く語っていた。
その言葉通り、序盤から疲れを見せずに「奪三振ショー」を展開した。初回に光星学院の先頭打者が左翼ポール際に大飛球を放ち、いきなり無死二塁のピンチを迎えたが、松井投手は動じない。後続から3者連続で三振を奪い、この回を切り抜けた。
今年3月まで長男が桐光学園に通っていた縁で、初戦から全試合をスタンドで応援している平塚市の大学職員、遠藤実嘉子さんは「松井君は疲れていると思うが、頑張ってほしい」とエールを送る。野球部の佐藤圭一君(3年)も「松井は神奈川大会でも連投していたので大丈夫。打線もこれから打ってくれる」と期待を込めた。
だがここまで好調だった打線は、光星の先発、金沢湧紀投手(3年)の変化球に苦しみ、エースを援護できない。両先発の緊迫した投げ合いが続いた。
七回、松井投手は先頭打者からの連続安打を浴び無死一、二塁のピンチを迎えた。しかし、6番の城間竜兵選手(3年)から三振を奪った直後、女房役の宇川捕手は三盗を試みた二塁走者を正確な送球で刺して併殺。直後の打者も三振に仕留め、危機を脱した。宇川選手の母、純子さん(44)「最後まで自分たちの野球を貫いて」と祈る思いでグラウンドの息子を見つめた。
続く八回も、安打と四球などで2死一、三塁のピンチを迎えた。「しっかり」「頑張れ松井」と一塁側スタンドから声援が飛ぶが、連投の疲れによる球威の衰えを、光星打線は見逃さなかった。主軸2人に連続適時打を浴び、3点を失った。
それでも粘る桐光は九回、先頭打者の水海翔太選手(2年)は内野安打に敵失が絡み、二塁に進塁。沸き立つスタンドで、同校OBの早稲田大1年、寺西洋さん(18)は「連打で逆転を」と祈ったが、後続が抑え込まれてあえなくゲームセット。あいさつに来たナインにスタンドは大きな拍手で迎え、口々に「ご苦労様」「ありがとう」とねぎらいの言葉を送った。父母会代表の田中亜矢子さん(45)は「みんな頑張った。お疲れ様と言ってあげたい」と目を潤ませた。
試合後、松井投手は涙ながらに「3年生ともっと野球がしたかった。また絶対、甲子園に戻りたい」と誓った。鈴木拓夢選手(3年)は「甲子園は本当に楽しかった。野球を続けさせてくれた両親と応援してくれた人たちにありがとうと言いたい」と感謝した。
◇専用応援歌で鼓舞
○…「オー、ヤマグチー」。桐光学園の応援団が陣取る一塁側スタンドに5番・山口翔大選手(3年)の応援歌が響いた。サッカー日本代表の応援で使われる「バモスニッポン」をベースにした曲で、応援団内では「ジャパン」と呼ばれる。昨夏から、なぜか山口選手の打席の時にだけ使われているが「スタンドも盛り上がる」と応援団員に好評で、山口選手自身も「テーマソングのようにして応援してもらい、うれしい」と照れくさそうに話していた。
◇「言葉はいらない」バッテリー 泣くな、頑張った
「思い切って自分の投球ができ、甲子園で活躍できたのも宇川さんのおかげ。最高のパートナーです」。松井裕樹投手(2年)は試合後、目を真っ赤に腫らしながら、宇川一光捕手(3年)への感謝の言葉を述べた。
八回のピンチの場面でマウンドに駆け寄った宇川捕手は、笑みを浮かべながら松井投手のほおを手でつかみ、わき腹の辺りをつついてリラックスさせた。疲れから険しさを増していた松井投手の表情が、一気に緩んだ。
神奈川大会でも見られた、いつもの光景だった。2人とも笑顔を浮かべただけで会話らしい会話はなかったが、宇川捕手は「考えていることは一緒。言葉はいらない」という。そんな宇川捕手との関係について、神奈川大会決勝後の取材で質問された松井投手は、「仲がいいですし、自分は上級生と思っていないです」と一瞬おどけて見せた後、「自分にはなくてはならない存在」と語っていた。
宇川捕手は昨秋、松井投手の切れすぎる変化球を捕球できずに後ろにそらすことが多く、捕手の座を失った。定位置を取り戻した今春からは、体でボールを止める練習に打ち込み、いつも体中をあざだらけにした努力の結果、変化球を体の前で止められるようになり、主戦の信頼も勝ち取っていった。
この日の試合でも松井投手が投じたワンバウンドの変化球を何度も受け止めた。ピンチの度にマウンドに駆け寄り、1学年下の主戦を明るく励ました。試合後には、悔しさで泣き崩れる松井投手の腰に手を回し、笑顔で寄り添った。
「松井とバッテリーを組めて幸せだった。自分も成長できた」
試合後、宇川捕手は最後の夏を笑顔で振り返りながら、後輩を思いやった。
「松井には『泣くな、頑張った』と言ってあげたい。ここまでありがとう」
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◇松井投手の投球内容◇
一回 二回 三回 四回 五回 六回 七回 八回 九回
二塁打 一ゴロ 三振 三振 三振 三振 左前打※ 中前打 三ゴロ
三振 一飛 二ゴロ 左飛 二ゴロ 三振 左前打 犠打 三ゴロ
三振 四球 四球 三振 三振 右飛 三振 四球 三振
三振 三振 二ゴロ 三振 遊ゴロ
左前打
二塁打
※は盗塁死 三振