毎日新聞 2012年08月22日 11時51分(最終更新 08月22日 12時08分)

 第94回夏の甲子園第14日の22日、準決勝第1試合で、明徳義塾(高知)の伊与田一起選手(3年)は、ライバルから贈られたバットを持って打席に立った。小学生から競い合った仲。「最後の夏、甲子園の土を踏みしめたい」との思いを受け、10年ぶりの決勝進出をかけた舞台に臨んだ。

 バットを贈ったのは、高知高校の内野手、芝翼君(同)。2人は小学生の時、軟式野球の高知大会決勝で対戦、投手として投げ合ったことがある。芝君はこれまで一度も伊与田選手のチームに勝ったことがない。「四国一の選手」。伊与田選手には、そんな思いを抱く。

 一方、伊与田選手は昨春と昨夏、今回と計3回、甲子園にレギュラーとして出場。昨夏は2回戦まで進み、2試合で4安打1打点の活躍を見せた。

 今春、高知はセンバツに出場。芝君も控え選手としてベンチ入りしたが、試合に出ることはかなわなかった。「もう一度、甲子園へ」との思いが一層募った。

 明徳義塾と高知は7月24日、高知大会決勝で顔を合わせた。延長十二回、明徳義塾が2-1でサヨナラ勝ちした。直後、芝君は伊与田選手に「バットいるか」と声をかけた。「甲子園にもう一度行きたかった思いをパワーに変えてくれ」との気持ちからだった。伊与田選手は受け止めた。普段使っているバットより1センチ長かったが、体になじむまで何度も素振りした。

 今大会、18日の新潟明訓(新潟)との試合前、スタンドから「頑張れ」と芝君が声を張り上げるのを伊与田選手は聞いた。五回、左中間に適時二塁打を放ち追加点をたたき出した。「今までで一番の会心の当たりだった」と笑みがこぼれた。

 準決勝の大阪桐蔭(大阪)戦。チームは0-4で敗退した。伊与田選手は3番・二塁手として先発出場したが、無安打に終わった。試合後、「甲子園に来たいという思いはみな同じ。芝の分も頑張った。優勝したかったが、負けて申し訳ない」と悔しがった。