2012年03月30日
30日の早朝、この原稿を書いている。グラウンドに雹(ひょう)が降るなど、ことのほか寒さに悩んだ今年の甲子園球場もここ2日ほど気温が上がり、ようやく「春はセンバツから」の雰囲気が漂ってきた。桜のつぼみはまだ固いが、コブシの白やサンシュユの黄が春を告げている。春風駘蕩(たいとう)。日差しに誘われ球場をぐるりと1周するのも、愉快な散歩である。
一塁側アルプススタンドの方に向かって歩くと、右手にエノキやケヤキなどが植えられた休憩スペースがある。その奥からバットを構えたレリーフの男が、こちらを向いている。野球王ベーブ・ルース。昭和9(1934)年、甲子園球場を訪れ野球ファンを熱狂させたという。レリーフは1949年、その史実を残すため彫刻家の松岡阜(ゆたか)(1923~2008)の手によって制作された。2005年にベーブ・ルースの生誕地、米国ボルティモアにスポーツ記念館が建てられた際、阪神甲子園球場と阪神タイガースが、松岡が保管していたオリジナルから復刻して、記念館にレプリカを寄贈している。
外野席、照明塔を左手に球場をちょっと外れた場所に、甲子園素盞鳴(スサノオ)神社が建つ。昔この地は武庫川の支流、枝川と申川の三角州の扇の要の地だった(だから甲子園球場の水はけは格別にいい)。江戸時代、白砂青松の宮で村人の信仰を集めたらしいが、大正13(1924)年に甲子園球場ができてからは野球ファンの参拝もあって、今では甲子園神社、タイガース神社などとも呼ばれている。境内には岡田彰布元監督の筆による「野球塚」や星野仙一元監督の筆による「夢」の字が刻まれたボール形の碑がある。私も大会の無事を祈ってよく出かけるが、社殿の後ろにスタンドと照明塔が見え、掃き清められた境内には人がいないのに応援団の演奏やどよめきが聞こえてくる雰囲気が格別にいい。さらに、外野席スタンドの奥に向かって外を歩くと、夏の大会90年、センバツ80年を記念した野球塔がそびえ、甲子園歴史館もあってゆっくり楽しめる。
さて大会は29日でベスト8が出そろい、紫紺の優勝旗を目指す戦いは佳境に入ってきた。顔ぶれを見ると、いわゆる私学強豪校とされる学校が並ぶ中、32年ぶり出場の古豪、徳島県立鳴門高校の活躍が目を引く。1回戦は洲本(兵庫)、2回戦は作新学院(栃木)をいずれも延長サヨナラで降した。2試合連続の延長サヨナラは、大会史上初である。大会中、よくご一緒する元NHKアナウンサーの西田善夫さん(75)=21世紀枠選考委員=は「昭和26年、少年時代にラジオで聞いていた大会の優勝を思い出しましたよ」と話しておられた。うず潮打線。記録によると、この時は3試合連続逆転勝ちだった。
土曜日の天気が崩れそうなのがとても気がかりだが、楽しみの多い後半戦である。
*鳴門は健大高崎に1-9で敗れた。