毎日新聞 2012年03月23日 地方版
◇四回一挙5点、逆転
第84回選抜高校野球大会で石巻工は大会第2日の22日、神村学園(鹿児島)と対戦して5-9で敗退した。4点差で迎えた四回、開会式で選手宣誓をした3番阿部翔人主将(3年)の中前適時打などで一挙に5点を挙げ逆転に成功。五回に再逆転されたが、選手たちはゲームセットまで笑顔で全力プレーを見せた。「あきらめない街・石巻!! その力に俺たちはなる!!」。そのスローガン通りに、最後まで諦めない姿を全国の野球ファンに焼き付けた。
▽1回戦
神村学園 110250000=9
石巻工 000500000=5
「どんなに苦しい状況も、自分たちの力で変えてみせる」。震災から1年、困難を乗り越えてきた石巻工ナインがあこがれの甲子園で、不屈の「石工魂」を見せた。
2点を先行されて迎えた四回表。相手の勢いは衰えず、ミスも絡んで2点を加えられた。しかし、左翼手の斉藤大晃選手(3年)は「いつか逆転できるはずだ」と信じていた。
ピンチは続き、1死二塁。左前に飛んできた打球をつかみ、中継に入った三塁手木村凌也選手(3年)に矢のような返球。木村選手も素早く送球し、本塁を狙った二塁走者を刺した。斉藤選手は捕手の阿部翔人主将(3年)から「ナイスボール」と声をかけられ、「これで試合の流れが変わる」と確信した。
その裏の攻撃。先頭の打席に立ったのは斉藤選手だ。「早いカウントから振っていけ」という松本嘉次監督(44)の指示通り、3球目の直球を強振。打球が右中間を抜けていくのを見て、二塁を蹴った。この三塁打が引き金となり、この回、打者9人の猛攻で一挙に5点を奪い逆転に成功した。
「自分のプレーでチームメートもスタンドも盛り上がった。今まで聞いたことがない大きな歓声だった」と斉藤選手は振り返る。松本監督も「あの一打で、選手たちの負けん気がよみがえった」とたたえた。
3月22日は石巻工ナインにとって特別な日だ。昨年3月22日、震災後に初めてチームが集まった。「もう一度、ここで野球をやろう」と、泥が積もったグラウンドの整備を始めた。
あれからちょうど1年後のこの日は甲子園で野球ができた。「また、夏に来ようぜ」。試合終了後に一塁側アルプススタンド前に整列したナインに、スタンドを埋めた石巻市民たちは大きな声をかけた。
3月22日は「再スタート」の日。試合後に涙を流した斉藤選手は「僕たち石巻の人は震災に負けていない。これからも、もっと強くなれるはず」と前を向いた。「あきらめない街・石巻」のナインは夏にまた甲子園に戻ってくることを誓った。
◇晴れ舞台で応援
○…スタンドでチアリーディングをしたのは、石巻市の石巻好文館高チアリーディングチーム「ピーナッツ」。石巻工にチアリーディング部がないことから要請を受け、2、3年生7人に加え、卒業したばかりのOG5人の計12人がエールを送った。リーダーの小野千紗都さん(3年)は「『オール石巻』での応援。笑顔で選手を勇気付けたい」。震災後、練習場所だった石巻好文館の体育館は避難所となり、本格的に練習を再開したのは昨年秋ごろ。津波で自宅が全壊し、仮設住宅から通学する阿部朋未さん(同)は「甲子園でチアができるなんて夢のよう。晴れ舞台に立てたことを感謝しながら精いっぱい応援したい」と声を弾ませていた。
◇日体大生、応援指導
○…石巻工応援団員の脇で応援指導をしていたのは、日体大応援団部の副団長、広田智之さん(21)。NPO団体を介して頼まれ、二つ返事で引き受けた。1週間前に石巻工を訪れ、団員に太鼓やリーダーの振り付けを指導した。「選手や団員を元気づけるために、少しでも力になれれば」と言う。その成果もあって17人の応援団員は、スタンドに駆けつけた生徒ら約1500人以上を率いて盛り上げた。四回裏にチームが一時逆転すると、斎藤祐希団長(3年)は「『復興打線』です。まだまだ盛り上がりますよ」と声を一層張り上げた。
◇5校野球部OBら、地元商店街で声枯らし声援
石巻市の5校野球部OB会連絡協議会は、市内中心商店街の旧みやぎ生協石巻中央店の空き店舗に大型スクリーンとテレビ2台を設置。約100人の市民らがスタンドの応援団に負けじとばかり声を枯らして声援を送った。
四回裏の猛攻では、一球ごとに「かっ飛ばせ、かっ飛ばせ」の大合唱。4点差をはね返して一挙に逆転すると会場内は歓喜の声に包まれた。
五回表に再び逆転され、点差をつけられたが市民らは「きっと再逆転してくれる」と、最終回まで懸命に応援。同市中央2の主婦、須藤ミエ子さん(81)は「負けはしたが、孫と同い年の元気はつらつな姿に感動しました」と拍手で選手らの活躍をたたえた。
石巻工の近くに住む同市山下の今川藤雄さん(70)は「選手らに根性を見せてもらった。帰ってきたらよく頑張ったと声をかけてやりたい」と語った。