記録的な猛暑に見舞われた今年8月21日の第92回全国高校野球大会決勝。優勝を目前に指笛が響き渡る興南高校(沖縄)のアルプス席を尻目に、県代表、東海大相模の選手が最後の1球まで追ったその姿が今でも脳裏に焼き付いている▼県大会1回戦から約2カ月にわたり高校野球を取材した。初勝利に沸き立つ高校、敗戦にロッカールームで泣き崩れる選手、小学校時代から二人三脚で歩んできたバッテリー……。出会った選手一人一人にドラマがあった▼甲子園の決勝で驚いたのは、東海大相模のアルプス席に、県内はもちろん、茨城や熊本などの人々がいたことだ。どの県も甲子園で東海大相模に敗れた県であり、「我々に勝ったのだから」と応援に来てくれたという。チアリーダーの首には対戦校からもらったお守りもかけられていた▼あの夏から約4カ月。東海大相模を甲子園で準優勝まで導いた一二三慎太投手に再び会いに行った。驚いたのは、3年間で最も印象深いことは甲子園準優勝ではなく「神奈川で優勝したこと」と真っ先に返ってきたこと。そして「甲子園で勝つことよりも、神奈川で優勝することの方が難しい」とも。多くの強豪校がひしめき合う神奈川ならではの言葉だろう▼一二三投手は阪神タイガースからドラフト指名を受け、来年1月には早くもキャンプに合流する。笑顔には高校生らしい幼さも残るが、「プロへの実感がわいてきた」と話す顔つきは早くも頼もしい。「神奈川で3年間学んだことをプロで生かす」とも力強く話した▼春には皆が卒業し、ナインはそれぞれの道へ進む。同校の部長によると、3年生のほとんどが野球を続けるという。強豪校にはよく、燃え尽き症候群といい、やめる選手が多いというだけに少しうれしくなった。「六大学野球に出て活躍したい」「指導者になりたい」など夢はそれぞれだ。「なんだかんだでみんな野球が好きなんですよ」。ある3年生野球部員がぽつりと言った。その言葉に、東海大相模の強さを感じた。
毎日新聞 2010年12月26日 地方版