◇バトンに育てられた
<銀色のバトンを宙に放り、軽やかに側転をしながら落ちてくるバトンをキャッチ。目を疑うような離れ業をやってのけるのはバトントワリングサークル「上州赤城トワラーズ」の子供たちだ。わずか2年で、ほぼ初心者の小中学生をここまで育てあげたのは、バトントワリング元世界チャンピオンの簾田武志さん。指導にかける思いを聞いた>
--バトントワリングとは。
直訳すると「棒を回すこと」。バトンを投げあげる間に体をスピンさせる、首や肩で回転させる、などいろいろな技があります。僕は2歳のとき姉の影響で始めました。
--トワラーズ設立のきっかけは。
玉村町や伊勢崎市のバトン教室に講師として呼ばれたこと。楽しくやれればいいと思ったけれど、皆がんばりやなので「上を目指せる」と欲が出た。07年にトワラーズをつくって本格的に指導を始め、この8月に生徒39人で県大会に初参加しました。審査員の先生は「全国レベル」とほめてくれましたが、まだまだ。
--「バトンを通じた人間形成」とは。
僕もバトンに育てられたからでしょうか。小学5年生で初めて大会に出たけれど成績は最下位。初めて「悔しい」という気持ちを知りました。のほほんとしていた自分を改めて真剣に取り組むようになったら、翌年同じ大会で1位に。目標を持つことや努力の大切さを身をもって学びました。今、子供たちは悔し泣きをし、夜に街灯の下で自主練習をして、自分を高める力を身につけていると思う。その力はバトンだけでなく生きる上で重要なものですよね。
--群馬にゆかりは。
ない、と思っていましたが先日不思議な巡り合わせがあって。8月にトワラーズがプロ野球独立リーグ・群馬ダイヤモンドペガサスの試合で応援の演技をしたんですが、そこで会ったのがコーチの沢井良輔さん。95年の選抜高校野球大会のとき、僕はPL学園高(大阪)の生徒会で応援の指揮をとっていましたが、沢井さんのいた銚子商業高(千葉)に初戦で負けたんです。阪神大震災直後の大会だったし、ものすごく悔しかったんですが、まさか沢井さんのチームを応援する日が来るとは。あの甲子園の話で盛り上がりました。
--今後の目標は。
トワラーズが11月の関東大会で渾身(こんしん)の演技をして、全国大会に出ること。この2年間、やるもやらぬも自由なサークルでここまで付いてくるとは正直思いませんでした。ブラジル代表の選手も教えましたが、あの子たちみたいに生活がかかっているわけでもない。でも全力を尽くして努力して、最高の悔しさやうれしさ、感動を味わってほしいですね。
◇取材後記
指導は「一番できる子のレベルにあわせる」という厳しさで、ときに怒声も。しかし、集中力に満ちた演技にはとろけるような笑顔を見せる。わずか2年での急成長は「群馬にすごいチームができた」と騒がれるが、指導者の力かと問うと「上州女の強さかな」とちゃめっ気たっぷりにけむにまいた。
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■人物略歴
◇みすだ・たけし(写真後列中央)
ブラジルのサンパウロ州生まれ。30歳。早稲田大学在学中の97、98年に世界大会で二つの金メダル獲得。卒業後はブラジル代表の監督を4年間つとめ06年に帰国。主に「上州赤城トワラーズ」と「浦安バトンクラブ」の指導をしながらテレビ出演、国内外への出張などに飛び回る。
毎日新聞 2008年8月26日 地方版