7月1日17時1分配信 毎日新聞

 「思い切っていけ」「よし来い!」。グラウンドに選手と監督の声が響き合う。北九州市小倉北区の私立慶成高校。軟式から硬式に転じて初めての“夏”がやって来た。甲子園を目指して132チーム(135校)が激突する第90回全国高校野球福岡大会に唯一初出場する慶成野球部を追った。
 ◇初の公式戦、強豪相手に手応え
 「キャッチャーマスクをつけろ」
 昨年11月、大野泰雄監督(30)は部員に指示した。手にはこの日買ってきた硬球。それを、マスクとグラブをつけ身構える部員めがけ、次々と投げ込んだ。軟式しか経験のない部員に、ズシッと重い球の感覚や跳ね方を覚えさせ、恐怖心を払しょくするのが狙いだ。「よし、次!」。一人一人、特訓は日没まで続いた。
   ◇
 97年まで女子高だった慶成に軟式野球部ができたのは3年前。校庭が狭く、硬式は到底無理だった。今でも一塁のすぐ後ろに砂場と柵があるため外野ノックができない。打撃練習はテニス部から譲り受けた使い古しのテニスボールを使う。
 硬式に転じたきっかけは区内の私営グラウンドが週2回使えるようになったためだ。学校創立50周年(08年)も重なり、大野監督が半ば強引に創部へ導いた。だが、部員は当初戸惑った。大半が中学時代は野球部の補欠か、あるいは全くの未経験者。「どうせ勝てっこない」。そんな不安を抱えた船出だった。
 ところが、一つの試合が彼らを本気にさせた。
 3月24日、慶成は初の公式戦に臨んだ。九州大会福岡北部予選。相手は今大会でもシードされる強豪・自由ケ丘だった。
 当時、慶成の部員数は試合がぎりぎり成立する9人。背中をけがした坂田隼気捕手(2年)がリタイアすれば没収試合で負けとなるため、急きょ身長180センチのラグビー部員をベンチに置いた。
 その試合で、益田直亮投手(3年)が最速138キロの速球を繰り出し踏ん張った。七回の攻撃では1死二塁から三盗に成功。実はサインミスだったが、浮足立つ相手バッテリーの失策を誘い、ついに1点をもぎ取った。「よっしゃー!」。沸き返るベンチ。1―3で敗れはしたが、益田投手は「負けた気が全然しなかった。もっとやりたかった」。
 心のどこかで「負け」を受け入れていたナインの目の色が変わった。
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◎投 益田直亮  3
 捕 坂田隼気  2
 一 浮巣頌太  3
 二 柳田優   2
 三 砂守隼人  2
 遊 壹岐村晃樹 1
 左 犬塚諒   1
 中 村上渉   2
 右 小野栄太  1
 補 藤原伸介  1
 〃 橋本一輝  2
 〃 原口義慶  3
 〃 水城雄馬  1
 〃 松崎貴一  1
 〃 赤池修平  1
 〃 吉田貴人  1
 〃 池田貴彦  1
部長 竹内文人
監督 大野泰雄
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 ◇私立慶成高校
 1958年創立の小倉女子商業高校から95年に校名変更。現在の生徒数は男女各237人の計474人。普通▽特進▽コンピュータビジネス▽福祉――の4科・コースがある。校訓は「愛・汗(かん)・献(けん)」。植木顕児校長。