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パソコンが苦手な年金生活者です
本を読んで面白かったところを紹介します

「 お言葉ですが・・・❹  猿も休暇の巻 」

高島俊男 (たかしま・としお 1937~)

株式会社 文藝春秋 2000年3月発行・より

 

 

 

 

 

社長として一番むずかしいのは、社員の採用だそうだ。

 

 

ヘタなやつを とってしまうと数十年の不作である。

無能だからとて クビにはできぬ。

 

 

やめてほしいやつほど しつこく居座る。

月給喰い虫を飼っている ようなものだ。

 

 

 入社試験を受けにきた者のなかから いかにして、会社にとって有用の

人材をえらぶか、苦学惨澹試行錯誤のすえ、彼はこれぞまちがいのない選抜方法をあみ出した。

 

 

 履歴書を書かせて、これを仔細に見るのである。

 

 

かならず自筆の履歴書でなければならない。  ワープロではだめである。

 

 

 履歴書をどう見るのかであるか、みなさん考えてみてください。

 

 

 どこの学校を出たとかを見るのでないことは、これはだれでも わかりますね。    それならワープロでも おなじだから。

 

 

 つまり、内容を見るのではなく、字を見るのである。

 

 

したがって筆記試験をしても同じことだが、自筆履歴書を持ってこさせた

ほうが かんたんだ。

 

 

字のどこを見るのか? それを かんがえて ください。

 

ヒントを さしあげましょう。

 

 

 いま、毛筆で履歴書を書く わかい者はない。

万年筆もいない。 全員がボールペンである。

 

 

 答。        紙のウラを見るのだそうです。

 

 

表に何を書いてあろうと関係なし。  字の巧拙もとより関係なし。

 

 

字のあとが、ぷっくりと ウラにふくれ出しているやつを採用すればまちがいない。

かならずよい社員になって くれるそうである。

 

 

 小生この話にいたく感銘した。

昨年一年間、人からきいた話のなかで、最も感銘した話であった。

 

 

自分が長いあいだぼんやりと感じていたことに、パッと光をあてて くれたからである。

 

 

 

 教員をした人なら多分どなたも おぼえがあること と思うが、試験の答案の出来と、字とは関係がある。

 

一見して、これはよさそうだとか、これはダメなようだ とかはわかる。

 

 

 たとえば、H とか 2H とかの かたい鉛筆を神経質にとがらせて、字が細かく、薄く、必然的に小さく、あとにいっぱい余白がのこっているようなのは、まずダメである。

 

 

濃いめの鉛筆で、ふとめの字で、元気よく書いてあれば内容もだいたい

よいものだ。

 

 

そういうことは長年の経験で漠然と感じていたのだが、それ以上つきつめてかんがえなかった。

 

 

 さすがに社長は社の命運がかかっているから、ウラをかえして見ることに気づいた。

 

 

字がウラへ出ているのは、腕に力が こもって いるからだ。

 

人間が びくついて いない。    たしかに よい社員になるだろう。

 

字は人なりだ。

 

 

 

 

 

 

                              9月9日の ならまち