「 お金をちゃんと考えることから逃げまわっていたぼくらへ 」
邱永漢 ( きゅう・えいかん 1924~2012 )
糸井重里 ( いとい・しげさと 1948~ )
PHP研究所 2001年3月発行・より
邱 どこのうちの親でも、自分の子どもに対しては、将来のために
「むだづかいをされたら困る」 という気持ちを持っていますね。
そうすると親は、ああしたらいかん、こうしたらいかん、といいがち
なわけです。
でも、ぼくは、人にいわれて覚えるのと自分で覚えるのとは、わけが
違うと思う。
言ってもしかたがない所があると思います。
例えば、サラリーマンの親だとしたら、ひと月にもらうお金の額が
決まっている中で、その範囲内で暮らすものだというところで、生き
ているわけでしょう。
糸井 そういう前提条件を動かせない所で、サラリーマンは暮らしています
から。
邱 そうすると、サラリーマンの親は、その前提条件を踏み外さないよう
に、ということを第一にして、子どもにお金のことを教えようとする
わけですよね?
だから、おこづかいをあげるときにも、どう使うかを干渉していまい
がちで。
糸井 なるほど。
邱 でもぼくはね、干渉してはいかんという考えなんです。
自分で覚えろと。
だから、例えば、うちの息子がアメリカに留学に行くときにもそう
しました。
ふつうだったら、サラリーマンをやっている親は、毎月仕送りをしま
すよね。 「あるお金の範囲内」 で暮らせというように。
でも私は、一年分のお金をあげましたよ。
糸井 おお!俺もそういうことを一度はやってみたかったけど、実際には、
できていなかったなあ。
邱 ぼくがどうしてそうしたかには、理由があります。
一ヶ月の仕送りだと、たとえ無駄づかいをしても、最後の一週間
だけをパンと水で暮らしていれば、飢え死にはしないわけです。
でも、もし一年分を早く使ってしまったとしたら、あとの残りを生き
られないわけですから。
糸井 怖い。
邱 だから自然に、自分で調節するようになりますよね。
糸井 つまり邱さんはお子さんに、お金に対する免疫力をつけさせたんで
すね。
(略)
邱 留学中に、ぼくの息子が 「今、パリに居ます」 って葉書をくれるん
です。
でも、パリに遊びに行くお金まで送ってあげた覚えはないので、
彼は一年分のお金の中から、自分がパリに行きたい分だけ節約
していたのでしょう。
つまり、だんだん自然に自分でお金のコントロールができるように
なります。
4月3日の奈良公園