「 バカの壁をぶち壊せ! 正しい頭の使い方 」
日下公人 (くさか・きみんど 1930~)
養老孟司 (ようろう・たけし 1937~)
株式会社ビジネス社 2003年10月発行・より
[ 養老孟司 ] 僕が東大を辞めどきだなあと思ったのは、国家
公務員の服務規程が問題になったときです。
あの服務規程は嘘八百みたいなものです。
まともに読んだら、僕のやっていることは全部違法行為です。
だいたい、出版社から教科書を出すことだっておかしい。
法学部の先生が岩波書店から教科書を出すのは、私企業からお金をもらうんですから、法律違反です。
アメリカの公務員は、在職中は印税をもらえません。
あれがいい悪いということではなくて、善し悪しを解釈次第にしているのがおかしい。
解釈が変るということは、検察のボスが代わった瞬間に縄付きになるかもしれないということです。
東大の教授が本を書くときには東京大学出版会から出すようにして、印税も出すという規定を作ればいいんですが、そんな話はいっさいない。
僕が辞めるころにも、教授の不祥事が問題になったものですから、「教育倫理マニュアル」 というものが回ってきました。
僕はまず、そのタイトルに驚きました。
「倫理」 と 「マニュアル」 がくっついているんです(笑)。
すぐに倫理学の教授に聞いてみようと思って電話をしましたが、幸いなことに留守でした。
それで、隣の哲学の教授の部屋に行って、「倫理とマニュアルがどういう理由でくっつくんですか?」 と聞きましたが、結局、返事をしてもらえませんでした。
マニュアルというのは手続きです。
中身は手続きそのものなんですから、ただの 「マニュアル」 とすればいいんです。
しかも、中身を読んだら、「実家が兼業農家であれば、自分の畑で採れた野菜を売ってはいけない」 なんてことが書いてある。
売ると商売になってしまうんです(笑)。
その他にも、東大には、学生が何か問題を起こしたとき、学内では学生に処分を与える規則がないんです。
後でトラブルが起きるということで学生はお咎(とが)めなし。
(略)
東大の教授たちもみんな、国家公務員の服務規程に触れるようなことを普通にやっていますけれど、現実にそれでクビになることはありません。
僕は本をたくさん出していますから、解釈の仕方が変れば、いつクビになってもおかしくない。
9月9日のならまち