「憎悪」が少ない日本人 | 人差し指のブログ

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「 山本七平全対話 7 日本人の社会病理 山本七平他 」

山本七平 (やまもと しちへい 1921~1991)

株式会社 学習研究社 1985年2月発行・より

 

 

日本人の社会病理     小此木啓吾 (おこのぎ けいご 1931~2003

 

 

 

 

 

山本   だいたい、日本の人は憎むというか、攻撃性を心に抱え続けると

      いうことができないんじゃないですか。

 

 

小此木 それを持続することは、罪悪だという考えがあると思うんです。

 

 

      このあいだ、ロンドンの精神分析医がきたときに帝国ホテルに

      泊まっていて、あの前の建物は GHQ の司令部だったんだと話

      したんですけれど、自分は広島とか東京とか、どこへいってみて

      もアメリカ人を憎んでいるとか、怨んでいるとかいう話を一度も

      きいたことがない、どういうことかときくんです。

 

 

      自分たちは、いまでもロンドンの空襲のことは忘れないし、

      ドイツ人の友だちには会いたくない、とはっきりいう。

 

 

      こっちはびっくりするんですけどね。

 

 

山本   私の知っているユダヤ人は、隣にドイツ人が座ると、からだ半分

      鳥肌が立つといいます。

 

 

      これは、ライシャワーさんが話しておられたんですが、奥さんが

      松方家ですけれども、松方家というのはすぐ会津の人と結婚した

      んだそうです。

 

 

      きのうまで敵味方でしょう。

 

      ところが、日本人というのは、すぐこれが できるからおもしろい。

 

 

      アメリカ人にはとてもそうはいかない、どうしてこういうことができ

      るのか、また日本人に新しく興味をもち直した、といっていまし

      た。

 

 

小此木 ほんとうに、おもしろいですね。

 

 

      どうしてこんなメンタリティをもつようになったのか。

 

 

山本   これは、私の仮説なんですが、真宗などの影響じゃあないでしょ

      うか。

 

 

      真宗では前世、現世、後世とあるわけです。

 

 

      現世ではこうだったから後世ではこうなるはずだ、自分がいま

      こうなったのは前世の因果だ、と思ったら、いつまでもこだわるの

      はおかしい。

 

 

      『妙好人伝(みょうこうにんでん)』 という真宗の伝道文書に書いて

      ありますけど、財布をとられても怨んではいけない。

 

 

      自分が前世で財布をとったんだ、現世でお返ししたのだ、と

      思うわけです。

 

      そうするともう なんにもなくなる。   便利な思想ですよ。

 

 

小此木 私も両親が仏教徒ですけど、小さいときに そういう教育を受けた

      ことがあります。

 

 

      教育というほどシステマティックではないですけど、家の中でそう

      いうことばを、いろいろな機会にきかされる。

 

 

山本   日本人には、これはみんな あるんですよ。

 

 

      自分が財布をとろうと思って、いや、後世でお返しするんだから

      やめとこう、で終りになる。

 

 

      そういう発想をすれば、おれはなんにも悪いことはしないのに 

      なんでこんなひどいめにあうのか。

 

 

      それは前世の因果じゃ、だから後世で報われる、で、もういい。

 

 

      ユダヤ教には前世、後世という意識は、元来はないでしょう。

 

 

      霊魂と肉体の分化という意識がないですから、死は字義通りの 

      「永眠」 です。

 

 

      だから、出生から死亡までのあいだに 「義」 が成立しなくちゃ

      いけない。

 

 

      だからたいへんなんですよ。   始末が悪い。

 

 

                                          

 

 

2018年8月3日に 「外国人の攻撃的性格」 と題して芳賀綏の文章を紹介しました。コチラです。 ↓

https://ameblo.jp/hitosasiyubidesu/entry-12491155932.html

 

 

 

 

 

                          奈良市内にて 9月3日撮影