ユーモア・日本と外国  | 人差し指のブログ

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「 言葉と礼節   阿川弘之座談集 」

阿川弘之 (あがわ ひろゆき 1920~2015)

株式会社 文藝春秋 2008年8月発行・より

 

「たかが経済」といえる文化立国を~藤原正彦(ふじわらまさひこ 1943~

 

 

 

 

阿川 僕が藤原さんの 『遙かなるケンブリッジ』 で特に気に入っている

    のは、数学科の同僚のリチャードが 「イギリスで最も大切なものは

    ユーモアだ」 というところ。

 

 

    あれは武士道精神にはあんまりないですなあ。

 

 

藤原 武士にはないですね。   町人にはありましたが。

 

    ユーモアは英国では紳士の品質証明です。

 

 

阿川 藤原さんも書いているけど、危機的状況になったときに最も値打ち

    を発揮するのがユーモアだという。

 

 

    ただのシャレや笑い話じゃなくて、英国人にとって深い意味を持つん

    ですね。

 

 

     海軍には 『初級士官心得』 という、会社で言えば新入社員への

    社長訓示か就業規則みたいな覚書があるんですが、それに 「ユー

    モアを大事にしろ」 ということが書いてある。

 

 

    ユーモアの大切さを説いた組織は、日本では海軍だけなんです。

 

 

藤原 それはすごいことですね。

 

    私は三十人ぐらいのイギリス紳士にリチャードの言葉を伝えて、どう

    思うかと聞いたんです。

 

    そうしたら全員が 「アイ・アグリー」 でした。

 

 

阿川 面白いなあ。

 

 

藤原 びっくりしましたね。

 

 

    どんなに頭がよくても、家柄がよくても、人格が高潔でも、ユーモア

    がないと紳士の資格がないと言うんです。

 

 

    日本には落語もあるし、ユーモアのセンスはもともと素晴らしいんで

    すよね。

 

 

阿川 江戸時代は笑いの花盛りなんですけどね。

    明治になって意外にしぼむんですよ。

 

 

    漱石の 『坊ちゃん』 とかユーモア文学の傑作も生まれてますけ

    ど、どうも文学として二流であるように思われがちなんでね。

 

 

    本当は優れたユーモア文学はよほどの素質と学識と、物事を冷徹

    に見る眼がなかったら生まれないんですが。

 

 

藤原 イギリスの本屋に行くと、「ユーモア」 というセクションがあって、

    壁いっぱいに本が並んでいます。

 

 

    それがドイツへ行くと、そういうセクション自体がないんですね。

 

 

    イギリス人とドイツ人は民族的に近いはずなんですが、ユーモアに

    関してはまったく違いますね。

 

 

阿川 フランスに ENA(国立行政学院)というグランドゼコールがあるんで

    しょ。

 

 

    そこの口頭試問に 「ウィーンにおけるドナウ川の水深を問う」 

    という問題が出たことがあるんだそうです。

 

 

    何メートル何センチなんて答えても何の点もくれないんだってね。

 

 

    「ドナウ川はウィーンを西から東へ約八キロにわたって貫流しており

    ますが、どの地点の水深をお答えしましょうか」 というふうに言えば

    合格らしい。

 

 

     海軍にも似たようなテストの仕方があって、たとえば 「蟻の歩く

    スピードは何ノットか」。 これなんかも、数字を挙げたって点はくれ

    ない。

 

 

    「世界には約四千種類の蟻がおりますが、どの蟻のスピードをお答

    えしましょうか」 と言ったら、「よし」 ということで九十点ぐらいもらえ

    るんだそうです。

 

 

藤原 なるほど、ユーモアは機智や精神の余裕を大事にするということな

    んですね。

 

             『文藝春秋特別版』  2006年11月臨時増刊号

 

 

                                    

 

 

(人差し指) 昔の事なんですが、徳川夢声がヨーロッパへ行ったときに、ある食事会で向こうの人から 「あなたはベートーベンによく似てますね」 と言われたそうです。

 

 

すると、彼は 「こっちに来たら皆さんから よく言われるんです、だから

ベートーベン記念館に行って彼の肖像画を見て回ったんですがね、どれも似ていない・・・・・・・でも最後にたった一つ そっくりなのがあったんです

・・・それはね、彼のデスマスク・・・・・」 と言ったら大いに受けたそうです。

 

 

 

雲の上に小さく飛行機が写っています、奈良市内にて7月24日撮影