チャイナ・ドレスは中国服?  | 人差し指のブログ

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「 誰も知らなかった皇帝たちの中国 」

岡田英弘(おかだ・ひでひろ 1931~2017)

ワック株式会社 2006年10月発行・より

 

 

 

順治帝(1643~1661)が北京の玉座にあったころの中国は、決して平穏ではなかった。

 

 

北京は満州人が占領したが、華中・華南の各地はまだ明朝の残党がいて、清朝の支配に抵抗をつづけていた。

 

 

これらを平定したのは、主として呉三桂ら、明から投降した漢人の将軍たちの力だった。

 

 

 その過程で、有名な辮髪(べんぱつ)の強制が行われた。

 

 

 辮髪という髪型は、頭の前半分の髪の毛を剃り、後ろ半分の髪の毛を伸ばして、頭の後ろでまとめて三つ編みにして、背中に長く垂らす。

 

 

豚のしっぽ(ピッグテイル)などとも呼ばれた、満州人特有の髪型である。

 

 

 頭を剃って、残った髪の毛を編んで垂らすのは、来たアジアでは古くから行われた習俗だった。

 

 

ただし、モンゴル人の場合は、一本の辮髪にまとめるのではなく、頭のてっぺんを剃り、まわりの毛を何本にもまとめて編んでたらした。

 

 

女は頭をそらない。

 

 清朝は中国に入ると、明朝の残党と区別するために、降伏した漢人に頭を剃ることを強制した。

 

 

頭を一度剃ってしまうと、また毛が伸びるまで時間がかかる。

 

 

明朝の時代の漢人は、髪の毛を長く伸ばしてまげに結っていたので、それを剃ってしまうのは簡単だが、いったん清朝に降って頭を剃った者が、また寝返って明朝の残党に加わるわけにはいかない。

 

 

頭を剃っていれば、仲間から 「清朝の回し者」 と疑いの目で見られる。

 

 

それで清朝は、降伏した漢人の頭を片っ端から剃っていった。

 

 

頭を剃ることを拒否した漢人は、明朝の残党と見なされて殺された。

 

 

そのため、「髪を留めれば頭を留めない。頭を留めれば髪を留めない」 という当時のことわざが残っている。

 

 

 その結果、二十世紀のはじめにいたるまで、辮髪は中国人の特徴ということになった。

 

 

しかしこの習俗は、もともと漢人のものではない。

清朝が漢人を満州化したのである。

 

 

 中国人の歴史観では、北方の蛮族が中国に入ればたちまち中華の偉大な文明に感化されて、自分たちが蛮族であることを忘れて中国化し、やがて中国人に吸収されて消滅するということになっている。

 

 

しかしこれは話が逆で、中国が北アジアの遊牧民・狩猟民に征服されるたびに、漢人は北アジアの文化に同化されたというのがほんとうで、清朝の時代に辮髪が漢人の間に普及したのは、その一例である。

 

 

 また、いわゆるチャイナ・ドレスは実は中国服ではない。

 

 

漢語で 「旗袍」(チーパオ)と呼ばれるのでわかるとおり、チャイナ・ドレスは旗人、すなわち満州人の婦人服であり、満州服である。

 

 

清朝の時代には満州人は特権階級であり、漢人が満州人の服装をすることは禁止されていたので、漢人の女性たちは満州服にあこがれながら、着ることができなかった。

 

 

それが二十世紀のはじめになって清朝が国民国家化に踏み切ってから、はじめて漢人にも満州服が許され、漢人の女性たちは大喜びで着るようになった。

 

これがチャイナ・ドレスの起源である。

 

 

                                     

 

 

 

2018年5月21日に 「清朝の成立と明史の編纂」 と題して加藤秀俊の文章を紹介しました。 コチラです。↓

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 2020年1月16日に 「清国は中国ではない」 と題して岡田英弘の文章を紹介しました。 コチラです。↓

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2018年3月18日に~モンゴル民族の「本能」とは~と題して山崎正和の文章を紹介しました。  コチラです。↓

https://ameblo.jp/hitosasiyubidesu/entry-12359349968.html?frm=theme

 

 

 

 

 

 

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