昔の「宗教と疫病の関係」  | 人差し指のブログ

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「 地球を舞台に      ボーダーレス時代をよむ       」

梅棹忠夫 (うめさお・ただお 1920~2010)

日本放送出版協会 1994年6月発行・より

 

~ 病に映ずる懐疑の時代 立川昭二(たつかわ・しょうじ 1927~

2017) ~

 

 

 

立川 もうひとつは、先生がおっしゃった宗教と疫病との関係のなかで、

    病気をいやす医療というものが、宗教の伝道のなかに かならず

    ワンセットになっている。

 

 

梅棹 かならずそうです。 

    宗教というのは病気の単なる比喩とちがうんです。

 

 

    ふたつは密接にむすびついている。

 

 

立川 イエス・キリストのときから そうですね。

 

 

    キリスト教のいちばん最初のライバルは、ギリシャ神話の医神

    アスクレピオスなんです。

 

 

    アスクレピオスを信奉して病気をなおす宗教集団が、地中海に 

    ひろがって いたわけですね。

 

 

    それがイエスたちの いちばんの競争相手だったんです。

 

 

    どちらのほうが うまくなおすか というあらそいだった。

 

 

梅棹 どちらがよくきくか。

 

 

立川 けっきょく、キリスト教はローマ帝国とむすびついたから、世界宗教

    になったんでしょうが。

 

 

梅棹 どんな病気をなおしたんですか。

 

 

立川 イエスがいちばん最初になおしたのは、マタイ伝にあるように

     ハンセン病でしょう。

 

 

    中世にできた修道会も、その創立者のフランチェスコも救らい活動

    で名をあげていくわけですよね。

 

 

梅棹 それとペストですね。

 

 

立川 だから、あれは修道院病院なんですよ。

 

 

梅棹 北東フランスで最初の病院はコルマールにある。

 

 

立川 そこにイーゼンハイム修道院というのがあって、有名なドイツの画家

    グリューネヴァルトの絵があるんですよ。

 

 

梅棹 わたしも いったことがあります。

 

 

立川 その有名なキリストの祭壇画をひらいていきますと、最後が 

    「アントニウスの誘惑」 という絵で、そこに描かれている怪獣は全部

    ペストであり、梅毒であり、ハンセン病なんですよ。

 

 

梅棹 宗教と疫病の関係からいうと、日本でもおなじですね。

 

 

立川 日本は仏教伝来とほとんど同時に天然痘と麻疹がはいってくるわけ

    です。

 

 

    あのとき、蘇我と物部が廃仏と崇仏であらそった。

 

 

    その根拠はなににあったかというと、廃仏のほうは外国の宗教を

    崇拝すると疫病がはやるという、崇仏のほうは、仏を崇拝すれば

    疫病はなおるという。

 

 

    もとは疫病をめぐる あらそいなんです。

 

 

梅棹 古代の政治を動かしたのは疫病です。  疫病をいかにふせぐか。

 

 

立川 たしか用明天皇も天然痘か麻疹でなくなられているわけですから。

 

 

梅棹 われわれが かんがえるよりも、古代人は疫病には ほんとうに

    悩まされたんでしょうね。

                       『月刊みんぱく』 1993年3月号

 

 

 

 

 

                           7月9日 奈良市内にて撮影