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本を読んで面白かったところを紹介します

 

 

「 日本人はどこへゆく  岸田秀対談集 」

岸田秀 (きしだ・しゅう 1993~)

青土社 2005年8月発行・より

    世界共存のための条件 西垣通・岸田秀  『群像』 2002年11月

 

 

 

西垣   プロテスタントに関していいますと、これは私の専門にやや近くな

      るのですけれども、プロテスタントは結局、印刷術の宗教なんで

      すね。

 

 

岸田   教会より聖書を重んじる宗教ですね。

 

 

西垣   聖書を印刷して、みんなが聖書をよむ。

 

      手書きの本は非常に高価ですから、一般の人はとても手に入ら

      ない

 

      大聖堂のようなところで坊さんの説教を聴くというのがカトリック

      ですけれども、そういう共同的な場を前提として、一人の神を信

      じるという方向に純粋化していったのがイスラム教だと思うので

      す。

 

      だから、彼らはコーランを読む音を非常に重んじると思います。

 

      私はよく知りませんけれども、アラビア語の音の響きで、信徒は

      暗記をするわけでしょう。

 

      あれは翻訳しちゃいけないんですね。

 

 

岸田   コーランはね。一字一句ゆるがせにしてはいけないそうですね。

 

 

西垣   ところが一方、キリスト教の聖書をそれぞれの俗語に翻訳して印

      刷することによって、一般の個人がみんな大量の情報を持てる

      ようになる。

 

      共同的な場でなくても、いつでも各自が神の言葉を読めるように

      なるわけですね。

 

      そういうメディアの変化に乗って広まったのがプロテスタントです

      がイスラム教はあまりに完成されていたのでその技術変化に乗

      れなかったのではないか。

 

(略)

 

西垣   あるイデオロギーが誰によって、どういう仕組みで伝えられていく

      か。

 

      物理的なメディアの影響も大きいですね。

 

      文字で書かれるのか、口頭なのかによっても全然違います。

 

(略)

      私が最近紹介しているメディオロジーという新しい学問がありま

      す。

 

      メディオロジーというのは、イデオロギーそのものというより、

      れが伝えられていく媒介作用に力点を置いて歴史を見ていこう

      いう考え方なんです。

 

 

       たとえば、マルキシズムが敗退したのは、イデオロギーそのも

      のに欠陥があったというより、むしろ媒体ゆえに敗れたとも考え 

      られる。

 

      マルキシズムの媒体は教宣パンフみたいな印刷物とかビラです

      よ。

 

      あれは文章も結構難しい。伝達の制度や組織も軍隊みたいな感

      じで、共産党もガチガチのハイアラーキー組織ではありません

      か。

 

      一方、消費資本主義を支えるテレビというメディアはそういうもの

      でない。

 

      もっと近づきやすくて、エロティックで、カラフルなイメージで、

      感覚的欲望に訴えてくる。

 

      その差でマルキシズムは敗れたという説もあるわけです。

 

 

岸田   それは日本だけのことじゃなくて、世界的な話ですか。

 

西垣   ソ連や東欧を含めた世界的な話です。

 

 

 

                                          

 

 

 

2016年8月7日に 「歴史上の人物と宣伝機関」 と題して司馬遼太郎の文章を紹介しました。コチラです。 

https://ameblo.jp/hitosasiyubidesu/entry-12182727676.html

 

 

 

 

                      昨年12月24日 奈良公園にて撮影