「わたくしたちの旅のかたち」
兼高かおる(かねたか かおる)/曾野綾子(その あやこ)
株式会社 秀和システム 2017年2月発行・より
<曾野> タイの道路工事の現場に行ったときのことです。
非常に暑い日で、タイ人の作業員はスコップで二三回土を掘ると、「ハァ~ッ」 と息をついてすぐ休む。
とにかくだらだら仕事をしているんです。
一方の日本人といえば、勤勉さが身についていますから、
そんな様子を見ていると腹が立ってくるんでしょうね。
現場を指揮する立場にもかかわらず、作業員からスコップを取り挙げて「ほら、こうやるんだ」 とばかりに自ら汗水流して手本を見せるわけです。
これが日本なら、「偉い人が率先して力仕事をやるなんて立派だ」 と称賛されるところです。
ところが、タイ人の作業員は、べつにありがたがるふうでもありません。
そこは多国籍の合同プロジェクトだったため、現場にはイタリア人やスウェーデン人の専門家も来ていました。
彼らはピカピカに磨き上げられた靴を履き、ノリのきいたシャツを着て、
クーラーのある涼しいオフィスにいます。
現場の管理は雇った中国人などの現場監督に任せて、自分たちは外に出ないんです。
額に汗して働く日本人と、何もしないヨーロッパ人。
タイ人の作業員はどちらを尊敬するかといえば、靴を汚さないほうを尊敬するんですね。
<兼高> 価値観の違いですね。
日本人はとにかく一分一秒もサボらず働くことを良しとします。
でも、現地の人は自分たちのリズムでやればそれでいいと考えている。
そもそも、日本人のように、働くことが美徳ではないんです。
こうした価値観の違いはよくあることです。
たとえば日本人は開発援助などでお金を出せば相手が喜んでくれると思っています。
でも、「お金を出すのは、何か負い目があるからだ」 と考える国もある。
世界には 「これがスタンダードだ」 というものはないと考えなければなりませんね。
昨年12月26日 和光市内(埼玉)にて撮影