「男女の仲」
山本夏彦 (やまもと なつひこ 大正5年~平成14年)
株式会社文芸春秋 平成15年10月発行・より
<山本> ラジオ・テレビが、なぜこんなに盛んになったか、それは電通のせいです。
「電通世界一」 「電通以前にさかのぼる」 に書いたことがありますが、どうして世界一になったかというとラジオに広告放送が許されることを、電通だけがいち早く知ったからです。
当時の電通社長が新聞広告よりこれからはラジオ、ひいてはテレビ広告の時代だ、これを一手に引受ければ電通は日本一になれると読んだ。
それで、まず復員してくる旧社員、満州や韓国から引き揚げてくる元社員を雇った。
やみくもに雇ったわけではないでしょう。
<山本> 当り前です。まず旧社員を雇った。博報堂は雇いきれないので雇わなかったが電通は 「満鉄」 などの元社員も入社させた。
満鉄の元社員はエリートで親戚縁者も多く上流です。
その人脈を利用できると踏んだ。ひとり入社させたら芋づる式に人脈をたどると、そのなかにはスポンサーになる人が当然いる。
電通はまず、スポンサーが決まらないうちに、ゴールデンタイムの大半を抑えた。
それからスポンサーを探した。その時間にコマーシャルを流したければ、電通を通さなけりゃならない。
ほかの代理店にどうしても出たいというスポンサーがいれば電通を通さなければならない。
電通は眠り口銭がとれる。
他の代理店を通すごとに、ってことですね。
<山本> スポンサーには番組をつくる能力がない。
ただ、ライバル社が松田聖子を出すなら、自分もそれに匹敵するタレントを出したい。だから制作費は取り放題です。
電通は、その上広告の必要がない会社までスポンサーにした。
例えば王子製紙、苫小牧製紙のコマーシャル見て、紙を買いに行く個人なんて一人もいません。
けれども広告しなければ知名度がない、優秀な人材が集まらないって言えば、人材難が長く続いた時代に争って広告するようになった。
5月18日 光が丘公園(東京・練馬)にて撮影