偏食だけど健康なパプァ族 | 人差し指のブログ

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パソコンが苦手な年金生活者です
本を読んで面白かったところを紹介します

 

 

それはニューギニア高地にすむパプァ族の食物についての、

ちょっと信じられない不思議な話です。

 

 

それはこの部族の人々の年間の食事は、サツマイモなどの植物質が実に九六・四パーセントを占め、他にはたいした物を食べていないことが調べてみてわかったのです。

 

 

つまり彼らの食物には現代の栄養学では人間の健康に絶対不可欠な要素とされている動物性蛋白(たんぱく)質が殆んど含まれていないわけです。

 

 

そこでもしこの極端に偏(かたよ)った食事が原因で、パプァ族の人々が現にひどく不健康な状態に置かれているのならば、何も驚く話ではないのですが、どういうわけかこの人たちは丈夫で、男の人はみな筋骨隆々としています。

 

 

このことを初めて聞き知った欧米の学者たちの反応は、このパプァ族の人々は宗教上か何かの理由で、外部の人には見られないようにこっそり隠れて、野生の豚などを時々捕って食べているのだろうというものでした。

 

 

それなら別に何の不思議もないわけです。

 

 

しかしその後一九七〇年に、オーストラリアのバーガーセンとヒスプレイが、このサツマイモを常食としているパプァ族の糞便を調べ、空中の窒素ガスからタンパク質を合成する働きをするクレブシェラとエンテロバクター

などの細菌を、分離することに成功したのです。

 

 

 

つまりこれらの人々は、何とこれまでの科学の常識を破って、呼吸する際に吸った空気の一部を消化管に送り、大腸にすみ着いているこれらの細菌の力を借りて、空気に含まれている窒素を固定することで必要な蛋白質を摂(と)っていたのです。

 

 

 

これまでにも生物による空中窒素の固定は、マメ科の植物が根瘤(こんりゅう)バクテリアによって行っていることは古くから知られていましたが、人間、つまり動物までもこれを行っていたとは驚きでした。

 

 

 

このことに関連して、日本の禅宗の多くの僧侶たちが、植物質の食事だけで健康に長寿を迎えているのも、もしかしたら空気中の窒素をパプァ族のように利用している可能性があるとのことです。

 

 

 

私がこのことに関心をもったのは、もう三〇年以上もまえに岩波新書の光岡知足(ともたり)著 『腸内細菌の話』 にあるこの話を読んでからですが、このテーマはその後も現在に至るまで日本の多くの研究者によって、色々な角度から研究が進められています。

 

 

「日本の感性が世界を変える 言語生態学的文明論

鈴木孝夫(すずき たかお 1929~)

株式会社 新潮社 2014年9月発行より

 

 

光が丘 夏の雲公園つばき園(東京・練馬)にて4月12日撮影