「凛とした日本 ワシントンから外交を読む」
古森義久(こもり よしひさ 1941~)
PHP研究所 2006年11月発行・より
蕭氏は一九八九年の天安門事件で活躍した民主主義運動のリーダーの一員で、その後、中国当局に追われて、アメリカに亡命してきた。
いまではカリフォルニア大学の大学院の 「中国インターネット・プロジェクト」 という研究機関の代表として、中国当局がいかにインターネットを規制し、逆用するかを調査し、研究している。
中国の人権抑圧に長年、抗議してきた活動家でもある。
その蕭氏が語った。
「アメリカにきてからの長年の民主主義運動でもっとも印象に残っているのは、一九九二年、シアトルの米人海洋学者から西海岸の浜辺に流れ着いた空きビンを届けられたことだった。
ビンのなかには中国の高名な人権活動家の魏京生氏が一九七九年に秘密裏に懲役十五年の刑に処せられ、以後、拘束されていることを記した中国語の手紙が入っていた。
その日付からこのビンは中国から十一年もかかって太平洋を渡り、シアトル近くの海岸に漂着したことがわかった。
この手紙によってそれまでまったく不明だった魏京生氏の消息が初めて明らかになったのだ。
私たちが全世界に向かって、その消息を発表したからだ」
魏京生氏は中国の民主化を求める論文を発表して逮捕され、その後の十八年を中国の獄中で過ごすことになった民主活動家である。
だが当時、その拘束も秘密にされていたのだった。
蕭氏にとっては先輩の活動家となる。
蕭氏はさらに証言をつづけた。
「いまから十四年前の千九百九十二年でも中国から外部への情報発信は太平洋を流れてくるビンに頼るほかないほど秘密に閉ざされていた。
だがいまは中国ではインターネットが1億1000万人が利用するほど普及し、どんな情報でも瞬時に外部世界に流されるはずとなった。
だが現実にはそうなっていない。中国共産党の独裁によりインターネットを含む通信や情報の流れは完全に管理され、抑圧されているのだ」
つまり中国では1億1000万人がインターネットを使うようになってもなお、重要な情報の多くは太平洋を空ビンが漂流するのと変わりない遅々たる流れのように抑えられている、というのである。
蕭氏は強調した。
「十四年前と現在と少しも変わっていないのは中国共産党の独裁であり、いまの中国ではインターネットで見解を表明して逮捕された人たちをも含めての政治犯の人数は十四年前よりもむしろ多くなっているのだ」
昨年11月26日 光が丘公園(東京・練馬)にて撮影