『現代日本のユーモア文学』六巻選集(立風書房)がさきごろ完結した。
わが国ではユーモア文学に対する評価がきわめて低く、文学のなかの特殊な一分野として端物扱いされがちなのだが、その通念に軽くジャブをくれて、ユーモアこそ文学の核とする視点から編まれたのがこのアンソロジーである。
(略)
じじつ、こうしてまとめられてみると、あるいは繊細、あるいは剛毅、あるいは洒脱、あるいは沈鬱、機智とユーモアの富の多様にあらためて驚かされる。
たとえば、こういうさびしいユーモアもあるのだ。
病気が癒ってしまい
すっきりした腹の上に
新しい晒(さら)しをくるくると巻いて
せったをはいて
看護婦さんに仁義をきって
あばよッ
と出て行ったが
裏門から入って来た霊柩車に
轢かれて死んだ
萬(よろず)幸多郎・・・・・
押さえると
すぐ死ぬ虫のように
彼は生きた。 (天野忠「虫」)
「書斎の旅人」
向井敏(むかい さとし 1930~2002)
株式会社新潮社昭和五十八年六月発行・より
新座緑道の枝垂れ桜(埼玉・新座市)4月6日撮影