神風号で盛り上がった河合隼雄先生と私、二人の操縦士の名前をいおうとして、ハタと口をつぐむ。
われらが人気の<空の勇士>(当時の流行語)の名を忘れるとは。
うーむ、うーむ、と二人で唸(うな)り、首をひねるが、同席の出版社の方はお若いから、もとより、昭和十二年のニッポン航空界の快挙などご存じでない。
ついに私が、比首一閃(ひしゅいっせん)、という感じで記憶をさぐりあて、はしたない大声で、
<飯沼、塚越!>
と叫んだら河合先生も、
<そやっ、飯沼や!>
と食卓を平手で叩(たた)かれ、大笑いになった。
飯沼・塚越両操縦士は、東京から僅々(きんきん)四日でロンドンに着き、亜欧飛行を成功させる。
五月に日本に凱旋したときの国民のフィーバーといったらなかった。・・・・
その栄光感の記憶を共有するのも同世代だけになってしまった。
本当は、こんな <日本人の成功> の記憶を、のちの若者に語り伝えてやりたいのだけれど、
どこでどうまちがったのか、<日本の汚辱> の記憶ばかりが語り伝えられる。
そしてそれは、他国からの強圧的な思想操作に負うところが多い。『残花亭日歴』
「おせい&カモカの昭和愛惜」
田辺聖子(たなべ せいこ 1928~)
株式会社文芸春秋 2006年発行・より
12月24日のブログで「おせい&カモカの昭和愛憎」と書いてしまいました、正しくは「愛惜」ですので直しておきました。
文中の飯沼・塚越両操縦士による神風号の快挙については深田祐介著「美貌なれ昭和ー諏訪根自子と神風号の男たち」文芸春秋社 に、詳しく書かれています。
新座緑道(埼玉・新座市)の楓の紅葉 道の向こう側は大泉学園町(東京・練馬)1月2日撮影
![新座緑道の紅葉](https://stat.ameba.jp/user_images/20160109/07/hitosasiyubidesu/32/c5/j/o0567042613535763256.jpg?caw=800)