聖なる植物ソーマ
「紀元前2千年紀前半(前千年代)、中央アジアからアフガニスタンを経てインドへと入った遊牧民アーリア人は、ソーマなる植物を祭祀に不可欠のものとして崇拝していた。また、紀元前千5百年から千年にかけて、彼らアーリア人がしたためたインド最古の文献『リグ・ヴェーダ』(千28編の讃歌集)には、ソーマに関する記述が多数見受けられる。ソーマとは植物であると同時に神であり、さらにその植物の搾り汁でもあった。ケシ、コカ、ペヨーテ、マジック・マッシュルームなどなど、他の幻覚性植物が全て神と人間とを橋渡しする“仲介者”と考えられていたのに対し、唯一このソーマだけは、植物そのものが神と同一視されていた。が、それほど重要な植物であったにもかかわらず、2千5百年にわたってその正体は分からぬままだった。そんな民族学上の謎に挑戦し、見事、ソーマの正体を突き止めたのが、マジック・マッシュルームの儀式に初めて参加した白人として知られるR・ゴードン・ワッソンである。63年、J・P・モルガン銀行を辞職したワッソンは、『リグ・ヴェーダ』の検証と気の遠くなるようなフィールドワークの末、69年に『聖なるキノコ―――ソーマ」(せりか書房)を発表。百以上の候補植物を退け、ソーマはベニテングタケであるとの結論にいたる。シベリア西部のフィノ族、アグリアン族、東北部のチュクキー族、コリアク族、カムカダル族など、その昔アーリア人が居住していた地域の人々は、現在でもなおソーマ=ベニテングタケを宗教儀式や娯楽に使用している。こうしたセレモニーにおけるベニテングタケの用いられ方は一風変わっていて酩酊状態に陥った呪術師(男性)の尿を参列者が飲み、それによって全員が陶酔するというのが伝統的なしきたりとなっている。ベニテングタケの有効成分は無変化のまま排出されるので、服用者の小便を飲むというのは、少量のキノコで多数の人々が酔う、極めて効率的な方法なのである。『リグ・ヴェーダ』に記された古代インド人のソーマ祭でも、同じように“小便の回し飲み”が行われていたという。」
「危ない薬」青山正明著より
補足
「ベニテングタケの有効成分であるイボテン酸とムスシモルは、ふたつ一緒になって初めて幻覚を誘発する。摂取法には、生のまま食べる、焼いて食べる、乾燥させてかじる、ミキサーで粉砕してジュースにして飲むなど、様々な方法があるが、一番美味なのは鍋物である。ただし、鍋にしたときには、煮汁もきっちり飲むようにしなくてはならない。なぜなら、アミノ酸の一種であるイボテン酸は水溶性なので、茹でると湯に溶け出してしまうのである。ムスシモルしか含まないキノコ本体を食べても、幻覚は期待できない(オオワライタケも鍋物にした際は、苦い煮汁を飲み干す必要がある)。それと、気になる味のほうだが、これについては全く心配は無用。竹本博士によって単離されたイボテン酸は、味の素(グルタミン酸)を凌ぐうま味とされ、事実、長野県の一部地域では、ベニテングタケを煮こぼして食用としているほか、煮汁はそばのだしに使われている。」
「危ない薬」青山正明著より
感想
昔、「サスケ」などの作者で有名な白土三平の本である地域ではベニテングタケを食べていると読んだ事がある。昔は関心があったけど、もう興味ないなぁ。でもうまいって言うなら食べてもいいけどね。