良き人生は
日々の丹精にある
松原泰道
(南無の会会長/龍源寺元住職)
情熱にまさる能力なし
「人に大切なものは知識よりも
才能よりも何よりも真剣味であり、
純潔な情熱である」
安岡正篤師の言である。
情熱なきところ、いかなる能力も
開花するはずがない。
情熱はあらゆる創造の源泉である。
画家の熊谷守一氏を取り上げたが、
この人は「狂」の字がつくほど絵に
情熱のすべてを懸けた、
絵と人生が一体になった人である。
世間はこの人を画仙(画の仙人)と評した。
芸術家であれ科学者であれ経営者であれ、
誰もが感嘆せずにはいられないような仕事を
成した人は皆、自らの仕事に
情熱の限りを尽くした人に他ならない。
去る七月八日、北尾吉孝氏率いる
SBIホールディングス創業二十周年を祝う会が
帝国ホテルで開催された。
創業時の社員五十五人、資本金五千万円。
それがいまは社員六千人超、
株式時価総額六千数百億円の会社となった。
二十年でこれだけの会社に育てられたのは
まさに偉業である。
会場で北尾さんの挨拶を聞きながら、
ある人の言葉を思い出した。
──「天才とは天の力を借りられる人」。
一代で偉業を成した人は皆、
天の力を借りられた人である。
エジソン然り二宮尊徳然り、
松下幸之助氏も稲盛和夫氏もそうである。
では、どういう人が天から力を借りられるのか。
その第一条件はその人が自らの職業に
どれだけの情熱を注いでいるか──
この一点にあるように思える。
「誰にも負けない努力をする」──
稲盛氏はこれを自らの信条とし、
人にも説いてきた。
「誰にも負けない努力」を氏はこう表現する。
「一点の曇りや邪心もない純粋な心を持って、
燃えるような情熱を傾け、
真摯に努力を重ねていくこと」。
「狂」がつくほどの努力、とも言っている。
そういう人に
「神はあたかも行く先を照らす松明を
与えるかのように、知恵の蔵から
一筋の光明を授けてくれる」
誰にも負けない努力とは、言い換えれば、
天が応援したくなるほどの努力、
ということだろう。
そういう努力をする者のみが
天の力を借りることができるのだろう。
二宮尊徳にもこういう言葉がある。
「おおよそ、人の勲功は
心と体との二つの骨折りに成るものなり。
その骨を折りてやまざれば必ず天助あり」
──おおよそ人の勲功は心と体と
二つの骨折りでできあがるもので、
骨を折ってやまない時は必ず天助がある。
そして、こう付け加えている。
「骨を折れや二三子(そなたたち)。
勉強せよ二三子」
先知先賢の一致して説くところを私たちも学びたい。
最後に、坂村真民さんの詩
「鈍刀を磨く」を紹介する。
鈍刀をいくら磨いても
無駄なことだというが
何もそんなことばに
耳を借す必要はない
せっせと磨くのだ
刀は光らないかも知れないが
磨く本人が変わってくる
つまり刀がすまぬすまぬと言いながら
磨く本人を
光るものにしてくれるのだ
そこが甚深微妙の世界だ
だからせっせと磨くのだ
情熱を持って生きることの大事さを説いて
珠玉の言葉である。