昭和40年、あの遠藤実がミノルフォンレコードを立上げた。
ミノル(実)フォン(音)である。
舟木一夫を筆頭に、遠藤門下生が一斉に移籍して来るもの
と思われていたが、大山鳴動して鼠一匹に終わった。
例え歌手たちは育ての親のところへ、はせ参じたいが、レコ
ード会社が手放すはずもない。
そんなわけで新人だけの船出になったのだが、そこは正に
名伯楽だ。 次々と、ヒット曲が誕生していった。
三船和子「他人船」、千昌夫「星影のワルツ」、津山洋子&
大木英夫「新宿そだち」etc. どの曲も、カラオケで数度は
歌った曲である。
ミノルフォン側も、当時はレコード両面の制作費用が無くて
B面にはカラオケだけを収録して発売していたのだ。
後のカラオケブームを呼んだ、最初の一歩になっていたのか
もしれない。
新人の中に、15歳の少女がいた。 山本リンダだ。
遠藤先生が問うた。 『君は、ボーイフレンドいるの?』
リンダが、こう答えた。 『え~、こまっちゃうな』
レコード会社を立ち上げてみたものの、ヒット曲と呼べる
のは辛うじて「他人船」のみ。遠藤実も困っていた。
思案にふけっていた遠藤が、やおらペンを手に、何やら書き
始めたのだ。 「こまちゃうナ」の歌詞だった。
コストを掛けたくなかったのか、万能の為せる業か、その場
で作曲も、さらに編曲まで完成させてしまった。
「星影のワルツ」から「高校三年生」までの幅の広さをして
も、「こまっちゃうナ」となると、もはや宇宙人ではないか。
設立2年目の大ヒット曲になる。
合田道人著 「昭和歌謡の謎」その他 参照