ポップでスイート、そしてチャーミング。

60年代アメリカの、古き佳き雰囲気があふれるミュージカルが

『バイ・バイ・バーディー」だ。

 

 ずうーっと日本上演を熱望してきたこの作品が

ようやく日本初演された。

なにしろ、ブロードウェイ初演(1960年)から、なんと60余年ぶり。

大方の人は作品名さえ知らないかもしれないミュージカルだ。

でも、楽曲はどれも魅力的で、あちこちで使われているので、

メロディを聞けば、ああ知ってる!となるミュージカルでもある。

 

バーディー(寺西拓人)とキム(日高麻鈴) 【撮影:源賀津己】

 

 物語の背景は1960年(もしかしたら50年代末かも)の

イノセント・エイジのアメリカ。

人気スターのバーディー(松下優也)に召集令状が来たため

全米のファンの女の子たちは大騒ぎ。

 

 彼のエージェントで作曲家のアルバート(長野博)は、

バーディーがいなくなること、そして有能な秘書ローズ(霧矢大夢)が

事務所をやめると言い出したことで、オロオロしていた。

ローズはアルバートの恋人で、彼の煮え切らない態度に怒っていたのだ。

 

ローズ(霧矢大夢) 【撮影:源賀津己】

 

 とりあえずローズはなだめられ、彼女のアイディアと

アルバートの新曲を使って、バーディー最後のイヴェントを

企画、実行に移すことになった。

新曲「ワン・ラスト・キス」を作り、その曲名通り

ファン代表の女の子にバーディーのキスを贈る、というものだ。

 

 選ばれたのはアラバマの田舎町に住むキム(日高麻鈴)。

バーディーが来るというので町中大騒動だが、

キムのボーイフレンド、ヒューゴ(寺西拓人)の心は穏やかではない。

2組の恋人たちの想いが入り乱れ、にぎやかな騒動が繰り広げられる。

 

 このストーリーのアイディア・ソースは

かのエルヴィス・プレスリーが徴兵された”事件”。

人気トップのロックスターが兵役に就くため、

ファンもマスコミも大騒ぎしたのだった。

 

中央二人:今井清隆と樹里咲穂 【撮影:源賀津己】

 

 ミュージカル『バイ・バイ・バーディー』は

バーディーよりも、アルバートとローズの恋の顛末が主筋。

サブ・ストーリーにキムとヒューゴの愛らしい恋物語がある。

ついでに言えば、アン・マーグレットが主演した映画版(1963)では

キムが主役になっていた。

 

「ワン・ラスト・キス」「ワン・ボーイ」など耳になじむ楽曲が次々。

いかにも60年代アメリカン・ポップスっぽい、

キュートなメロディばかりで、

帰り路ではきっと口ずさんでしまいそう。

 

 バーディー役の松下優也、ヒューゴ役の寺西拓人が

歌えるし踊れるし、役にぴったり。

もっとすごいのが霧矢大夢。

素敵なダンス・シーンをたっぷり披露して、魅力全開だ。

 

 そういえば大人チームは、芸達者が揃っている。

キムの両親は今井清隆と樹里咲穂。

アルバートの母親は田中利花。

このあたりがコメディを大いに盛り上げている。

 

 もうひとつ、60年代ファッションも見どころ。

パニエでふんわりさせたスカート、ソックスにハイヒール、

ポニーテールにリボン。

パステルカラー花盛りのファッションが、もうかわいいったら。

 

見どころ、聞きどころの多いチャーミングな作品。

綿菓子みたいにふんわりした甘さが広がるミュージカルで、

やっぱり、これ大好きと再認識した次第。

 

10月18日(火)~10月30日(日) KAAT神奈川芸術劇場〈ホール〉

11月5日(土)~11月7日(月) 大阪・森ノ宮ピロティホール

11月10日(木) 東京・パルテノン多摩 大ホール